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五月文楽 一谷嫩軍記、曽根崎心中 ・国立劇場小劇場

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 文楽がの国立劇場公演には去年からご縁を頂いて
 毎回の楽しみとなっています。
 五月公演は
 「公益財団法人文楽協会創立五〇周年記念
      竹本義太夫三〇〇回忌記念」
 という記念の公演となりました。
 折良く、友人が竹本義太夫三百回忌記念の手ぬぐいをプレゼントしてくれました。
 当日、演目の熊谷陣屋の応援として
 埼玉熊谷市からゆるキャラの「ニャオざね」くんがきていました。
 国立劇場のマスコット、くろごちゃんと一緒に会場入り口が
 賑わっていました。
 熊谷陣屋の熊谷は神戸須磨に設けられた熊谷直美の陣屋なのですが、
 ここはゆるキャラ、ということのようでした。

 
 一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)
    熊谷桜の段
    熊谷陣屋の段
 
 並木宗輔を立役者とした全五段の時代物です。
 宝暦元年(1751)に大阪豊竹座で初演されたそうです。
 以来、歌舞伎でも人気の演目で知られています。
 小次郎、敦盛の二人の母の心情、
 義経に仕える直実、平家の武将への恩義、等々が絡み合い、
 結局、直実は小次郎を失った悲しみと無常を抱えて出家していくのでした。
 高麗屋、幸四郎の「夢だぁ〜」と泣く泣く花道を下がる有名なシーンを思い出します。
        
 近松門左衛門生誕三六〇年記念   
 曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
    生玉社前の段
    天満屋の段
    天神森の段
 近松の心中物、曾根崎は近松が51才で竹本義太夫のために書いた作品で、
 元禄16年(1703)大阪竹本座で上演され、大当たりをとります。
 初演後、上演が途絶えますが、昭和30年に復活され、
 現在では人気演目となっています。
 この昭和30年で復活という説明を鑑賞ガイドで知って驚きます。
 醤油屋の徳兵衛と遊女お初のどうにもならない心中、という結末は
 あわれ、若い二人の恋の道の純情とともに甘い陶酔へと導きます。
 「此の世の名残、夜も名残。死にゆく身をたとふれば
  あだしが原の道の霜。一足づつに消えてゆく
  夢の夢こそあはれなれ・・・・・」
 なんとも名調子の語りが謡われます。
  
 去年からのご縁で東京公演は昼間の部をずっと鑑賞してきました。
 といっても年に数回ですから、まだまだ始まったばかり。
 遠い、二十代の頃に国立劇場で観ていますが、何を観たのか忘却の彼方。
 それでも、舞台横での三味線と大夫の語りの迫力に圧倒されました。
 次回は9月だそうで、またまた楽しみにします。
 お代は歌舞伎座の3階席くらい。
 パンフレットが600円で床本集(台本のようなもの)が付録について
 充実の内容。毎回コレも楽しみ。
 某、大阪のえらいかたによる大波で、文楽協会は大激震。
 そんなこともあったけれど、こんな楽しいライブが命たたれてなるものか、
 五月公演は大入りも出たようで、なによりなによりです。
 今後も文楽の活動に微力ながら応援エールかけていきたいと思っています。

 ゆるキャラのニャオざねとくろごちゃんは
 こちら〜
 

桂ゆき、フランシス・アリス、MOTコレクション・東京都現代美術館

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 梅雨入りしたのか、空梅雨なのか、
 やはり、梅雨だったのかな、という乱調な6月ですが
 忘れないうちに、鑑賞メモしておこうと思います。

 *東京都現代美術館 桂ゆき展

 現美をたまにチェックするとどっきりすること多くて今回も
 とても盛り沢山に楽しみ盛り上がりました。
 MOTコレがまた充実なんです。古い世界からのつながりも見えて
 私の古くなりつつある(なっている)脳みその近代化もできそうな気がします。
 桂ゆきという女流作家がとても真摯に絵画に向かっていたこと、
 人間性のあたたかさと、日本人の物語を大切にしたこと、
 シュールの時代のなかで独特の表層感をもってたということ、
 チャーミングな感覚が散らばってユニークなんだけれど、厳しい目もあり、
 かわいらしさもあって、温かなのびのび感を浴びるようでした。
 赤色の襦袢布オブジェには草間弥生さんも滲んでたり。
 桂ゆきは岡田三郎助に師事したと解説があったように思いますし、
 戦前より瀧口修造や藤田嗣治等から注目されてきたとの説明にも驚きました。
 コラージュのような表層の重なりは絵画になっても、
 オブジェになってもその形質が特徴なのだとと思いました。
 コルクの作品はとてもユニークな表面となっていました。
 こんな女性作家がいたこと、誇らしく思ったのでした。
 展覧は9日に終了してます。

 サイトはこちら

 *東京都現代美術館 フランシス・アリス展

 初めての作家、作品でしたが、なんとも理不尽なスパイラルで無常観が
 ひしひし伝わります。何をしてるんだか、という切なさもありつつ
 そうはいっても同じ事が始まり終わり、何も変わってはいかないんだという
 諦めもありつつ、でも罠にはまったように繰り返していく映像。
 ちょっと時間に対する耐性が問われるけれど、
 慣れてしまえば思わぬ落とし穴に嵌まっていくようです。
 2期の展覧は6月29日から9月8日までの会期なので、
 夏休み、ちょっと面白いショート映画を観る気分で行くのも面白いと思います。

 サイトをぜひご覧ください。こちら

 *東京都現代美術館 MOTコレクション 私たちの90年 1923−2013
           残像からー afterimages of tomorrow

 MOTコレクションはかなり充実で毎回楽しみです。
 コンパクトな冊子も読み応えあります。
 会場に入るといきなり手塚愛子さんの大作「層の機」
 唯々大きいだけで圧倒されるのですが、その作品の重厚な重層ぶりにも圧倒されます。
 大きな絨毯が出来る途上なのか、解体途中なのか、、、、、
 パンフレットの解説によれば、制作途上を見せる、という試みだそうです。
 古代からの歴史の表現な重ねられ人間の営みの歴史を伝えているようです。

 第1部 私たちの90年 1923ー2013
  ここで河野道勢の小作品、キリスト教の色が強いものが並びます。
  彼はハリストス正教会の熱心な信者だったそうです。
  大きな三部作の壁面作品がドンと現れ、作家の名前「杉全直」に
  おっとなったのは芸大所蔵の彼の作品「たかげた」がとても好きなので
  覚えていたのでした。こういう出会いはとても嬉しいものです。
  展示作は「涸れた泉」
  戦争、震災体験の重たい空気を生きていかなければならなかった
  途方もない体験を叫んできたのです。
  鶴岡政男の「重い手」の赤の重たいこと。
  藤牧義夫の巻物は隅田川を見つめた絵巻はスクリーンに全体像を映していました。
  中村宏の「砂川五番」「革命首都」
  タイガー立石、篠原有司男、同時代作家としてリキテンシスタイン、
  トム・ウェッセルマンも展示され、勢いあるアメリカを意識します。
  そして、
  目玉だったのが
  大岩オスカール幸男
  「戦争と平和」という大作の二枚組と
  会田誠の「たまゆら」「美しい旗」とのコラボレーションでした。
  体験者ではない若い人のイメージとしての戦争画ということになりましょうが、
  ノスタルジックな切なさの中にもその焦土残像を背負って
  現代人ははかなくも致し方無くも生きていることを
  感じさせられるのでした。

 第2部 残像からーafterimages of tomorrow
 会場の2階に上がって第2部を見ます。
 突如、杉本博司御大の白黒写真が並びます。
 リチャード・セラの彫刻がまるで近未来な建築の一部にみえます。
 クールで怖いくらいのモノクロにただならない仕掛けがありそうで
 杉本氏のたくらみに喜んで振り回されるのです。
 鴫剛という作家の写真を描き写し、それを写真に撮り、それをまた描くいう連作。
 何かに取り憑かれた作家には気の遠くなる作業の結果
 リアリティというのは何か?と尋ねられます。
 そして、また中村宏が登場しますが、
 「事件」は絵画と鑑賞者の出会いの瞬間にも起こるーという思考の元、
 「絵図連鎖」シリーズが生まれます。
 映画の絵コンテのようなスケッチのような作品群。
 風間サチコ「魂!怒濤の閉塞艦」
 大海の嵐の中遭難しそうな大型船の荒れ狂う戦いの墨色一色の劇画的画面です。
 現代作家、後藤靖香さんを思い出したのでした。
 28才で早世した石井茂雄という作家の作品群を初めて知りました。
 他、森千裕、O junさん達の作品も。

 そんなことで、大変盛り上がった現代美術館でしたが、
 そうとう疲弊します。
 なので、お茶休憩をし、ショップをぷらぷらしながら
 帰宅するための英気を養って現美を後にしたのでした。
 夏は恒例の夏休み企画、手塚治虫と石ノ森章太郎熱く盛り上がるのでしょうね☆

 画像はその時に見つけたものです。














 *展示は6月9日で終了しています。

貴婦人と一角獣 ・国立新美術館

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 実母がなにやら美術展に行きたいというので、
 どこがいいかと考えたが、
 上京するのは月曜日、自ずと行かれる場所に限定感あります。
 そこでこの「貴婦人と一角獣」展開催の国立新美術館が月曜日開館で
 火曜日休館を思い出し、チャンス!と向かうことにしました。

 あちらこちらでの評判を耳に目にし、日曜美術館でも取り上げられ、
 これは日本に来ること自体が一大事件のようなので、
 楽しみに乗り込んできました。
 母ときたら貴婦人は貴婦人が見るべきだわ、とかなんとか、ごにょごにょ。

 しかし、ものは実物を見ないと伝わらないのは今回ほど知らされることも
 少ない事でしょう。
 圧倒的な大きさと、天井の突き抜けた会場によくぞ収まってくれたものと
 母娘でぽか〜んと仰ぎ見てきたのでした。

 会場に入るといきなり大広間、ドームといった方がいいくらいの展示室。
 ここにあの魅力的な赤に染められた巨大なピスリー6連作にぐるり囲まれます。
 一瞬どこから始めたらいいのか戸惑うくらいの
 大画面の大迫力。

 「触覚」、「味覚」、「嗅覚」、「聴覚」、「視覚」、
 そしてラストに「我が唯一の望み」
 それが「愛」なのか、「結婚」なのか、はたまた「知性」なのか
 未だに謎に包まれているそうです。
 解明されていないというミステリーも大きな魅力の一つとなっています。

 朱赤地の巨大な布は
 フランス国立クリュニー中世美術館の至宝、パリから奇跡の初来日という
 一大イベントの主人公です。
 門外に出たのは1974年アメリカ、メトロポリタン美術館に行っただけとのこと。
 その美しさとロマンティックな甘い表現と
 登場する貴婦人の姿、動物たちの愛らしい様子は併設された
 高精細デジタルシアターや、映像コーナーで堪能することも出来ます。
 また、場内には関連作品も数多く展示されていて、
 それもまた美しいものばかり。
 マグダラのマリア像や、聖女バルバラの彫像も興味深い作品です。
 数珠を持ったマリア様の足下に骸骨が転がっていた像は
 マリア像のもつ清く美しい透明感ある神々しさとは違った
 ダークサイトな悩ましいお姿でした。

 輝くガラスのステンドグラス絵、アクセサリーなども洗練された工芸に見えましたし、
 他のタピスリーの連作も見所満載です。

 中世ヨーロッパ美術の華麗で典雅な展示は
 7月15日までです。
 
 ぜひ現場体験、国立新美術館での鑑賞をお勧めします。

 余談ですが、日曜美術館で現地を来訪された
 原田マハさんのこのタピスリーの物語り上梓を心待ちにしたいと思ったのでした。
 至宝流転の歴史に何を見るのか、楽しみです。
 
 国立新美術館のサイトはこちら。

 母はすっかり堪能できて、やっぱり、貴婦人は貴婦人を見ないとね、と嬉々として
 東京駅から伊豆へ帰途についたのでした。







被写体としても面白い美術館です。

有栖川宮・高松宮ゆかりの名品展 ・上野の森美術館

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 「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展に行ってきました。

 上野の森美術館は時々はっとする展覧会を開催します。
 今回もそんな展覧で、宮家の端正なご趣味を拝見する、そんな気持ちで
 会場入りしたのですが、
 驚きの作品群ですっかり魅了されてきました。
 
 開催概要 (本展のサイトから)
 上野の森美術館の母体である日本美術協会は明治12 年(1879)に龍池会として発足し、
 明治20年(1887)に日本美術協会と名称を改めました。
 初代総裁に有栖川宮熾仁親王殿下、第二代に威仁親王殿下、
 そして昭和に入り第四代総裁に高松宮宣仁親王殿下を戴いてきました。
 日本美術協会は明治期において、日本美術の振興と海外への紹介に努め、
 現在では上野の森美術館の運営および「高松宮殿下記念世界文化賞」の顕彰を行うことを活動の軸にしています。
 今年、日本美術協会創立125 周年を記念して開催する本展では、
 有栖川宮家、高松宮家にゆかりの美術工芸品を中心に、
 両宮家の歴史や宮廷の雅(みやび)の一端をご紹介します。
 展示は、当館で1995 年に開催した「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品展」で評判を呼んだ品々に加え、
 近年当館へ預けられた有栖川宮家伝来のディナーセットなどで構成されます。
 '95年の開催時は22日間という短い会期のなか、入場者3万人を超える人気ぶりでした。
 あわせて、日本美術協会と関わりの深い作家の絵画、彫刻、工芸作品などにより、
 明治から昭和初期まで美術界で大きな役割を果たしてきた日本美術協会の足跡を辿ります。

 そういう流での開催ということを展覧を見てから知ったのでした。
 展覧は前期後期と分かれての展示でその作品群の多さを物語ります。
 また、母校國學院大學は有栖川宮幟仁親王が、初代総裁に就任されたこともあって
 ご縁を頂いた気持ちにもなりました。
 ご参考まで。

 ご両家の成り立ちやご成長、ご成婚をアルバムを見るように展示された
 写真や工芸品などで辿ります。
 お二人は絵を描いたり茶碗を作ったりと芸術方面への造詣も優れていて、
 宮家の教育の高さを見る思いでしたし、そもそもの素質も高い方々だったと
 ため息混じりに感心したのでした。

 階上で展示されたゆかりの品々に驚きの対面がありました。
 牙彫の巨匠、安藤緑山作の 蜜柑。双桃が並んで展示されていたのです。
 まさに冬のこたつの上で皮を剥かれ始めた蜜柑がそこにありました。
 超絶リアルな蜜柑に吸い込まれました。

 また、お雛様飾りの内裏飾り一式はやはり工芸の粋を集めたような
 丹精された段飾りの立派なことにため息を漏らすだけです。
 三井記念美術館でのお雛様展を思い出しますが、
 宮家のものとなると品格もお人形に表れるようで、素晴らしいものでした。

 小堀鞆音の「舞楽図衝立」端正でとても優雅な表裏の舞楽図です。
 河鍋暁斎は「東台戦争落去図」「上野山内一覧図」で参加です。
 日本美術協会の「書画帖」
 彫刻工芸では 柴田是真、初代宮川香山、海野勝珉、板谷波山、などなど
 帝室技芸者たちの優品が並びました。

 展覧会のサイトはこちら。
 端正な優品の数々、雅な宮家の関連所蔵品の素晴らしさの一端を拝見することが出来たのでした。

 会期は7月14日まで。

 また、同じ建物のギャラリーでは
 世界文化賞の芸術家たち、として、
 絵画・彫刻部門の受賞者たちのフランクな顔が並んでいます。
 草間弥生、杉本博司、三宅一生など日本勢も見られます。
 あら、と思う芸術家の顔をみるのも楽しいひとときでした。 

古染付と祥瑞 ・出光美術館

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 前回の源氏と伊勢物語から変わり、
 涼しい青の世界、やきものの展覧が出光美術館で開催中です。

 このやきもの、古染付と祥瑞(しょんずい)は中国の
 明時代末期、景徳鎮窯のものです。
 このやきものを日本人は茶陶としてとても愛してきました。
 都内の茶道具を得意とする美術館には必ずこれらの名品を所蔵しています。
 天啓時代(てんけいじだい 1621〜27)を中心とする“古染付(こそめつけ)
 崇禎時代(すうていじだい 1628〜44)を中心とする“祥瑞(しょんずい)
 いずれも日本での呼称で分類されているようです。
 
 景徳鎮窯が官窯であった時代から
 民窯になったころ、それまでの完成された緊張感あるやきものの姿から
 力がいい感じに抜けて
 絵付けされた柄もなんとも脱力系で
 微笑ましいものばかり。
 一方の祥瑞は端正な形、絵付けも細密で描き込みも多く、
 中国の色が強く感じられます。

 古染付の展示は
 水指、花生、手付鉢、水柱、皿、徳利、椀、
 香合、香炉、硯屏などなど。
 天啓赤絵の鮮やかな皿や鉢。
 見たことがある向付の組皿は
 石洞美術館からの特別出品です。
 東博での展覧にも出品されていたことが思い出されます。

 祥瑞からは
 茶碗、水指、香合、香炉、皿、鉢、椀、徳利などなど。

 どのやきものも白地に青という色使いで、
 目に清々しい爽やかな風が吹いてきます。

 最後のコーナーには出光所蔵のお宝屏風が展示されていて、
 大きなおまけを大いに喜びました。

 伝雪舟の四季花鳥図屏風 室町時代

 狩野内膳 景物図屏風 江戸時代

 麦・芥子図屏風 狩野重信 江戸時代
  とてもバランスのいいデザインで感嘆します。

 盆栽図屏風 筆者不明 江戸時代
  見たことのなかった珍しい様々な盆栽が描かれています。

 藤棚図屏風 長谷川派 桃山時代
  長谷川派と聞いただけでウットリしてしまう長谷川派ファンです。
  後の応挙も藤を屏風を作成したことを思い出します。
  根津美術館所蔵のもののことです。

 扇面貼交図屏風 筆者不明 室町〜桃山時代
  色んな扇面を屏風に散らしてあるスタイルのものです。

 詳細なガイドがサイトにあります。
 参照してみて下さい。こちらから
  
 会期は今月末、30日までです。
 梅雨のうっとおしい時期、涼やかな白と青の世界でリフレッシュすることが
 出来るのではないでしょうか。 

江戸博常設展示 ・江戸東京博物館

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 現在、アメリカからファインバーグコレクション展が開催中です。
 そのコレクションの素晴らしさは
 プライスコレクションや、バークコレクション、などなどアメリカのコレクターの
 水準の高さに驚きと尊敬を捧げます。
 ファインバーグさんのコレクションは、煌びやかな派手さ、という点では落ち着いていると
 思いますが、とても品格のある、渋いコレクションだと感じました。
 琳派の風が吹く、江戸文化の芳香が心地よい、素晴らしい展覧会でした。

 同時に常設展にも久しぶりに行ってきました。






 ここはちょっとしたテーマパークです。
 体験型歴史探検ができます。
 先ずは、日本橋を渡る大きな木の橋を渡る、
 その向こうに芝居小屋、中村座の賑々しい佇まいに
 どうしたってテンションが上がります。
 息子が小さいときに家族でも何回か楽しみました。
 今はもう、自分のことで精一杯の青春受験生となってしまいましたが。
 その空間に入り込んでいいのだ、という場面は
 子どもにかかわらず、大人だって楽しめます。
 殿、出立のお時間でございます、と籠に乗せたり、
 親分、出番ですぜ、と纏を振ったり、
 鼠小僧は本当にこんな重たい千両箱背負って屋根瓦を走って逃げたのか?とか。
 歌舞伎のコーナーでは四谷怪談のワンシーンを
 からくり人形劇場で見ることも出来るし、
 12代團十郎丈を思い出すような助六場面も間近に見ることが出来ます。

 大好きな劇場広場なのです。

 常設の案内がサイトにあります。こちら

 企画展示場では、江戸博ならではの掘り出し物(発掘品)の展覧が開催されていました。
 「発掘された日本列島2013」
 ・縄文時代 東京国立市緑川東遺跡から巨大な石の棒が見つかりました。



 ・つくば市上境旭台貝塚からは 土偶がざくざく。
  ミミズク土偶は完品ものです。





 ・中世平安時代頃のもの 福岡県久山町史跡首羅山遺跡から
  薩摩塔というとても珍しい、石塔を初めて見ました。
  お塔のなかのお坊さんなのか?の表情がなごみます。



 今回の展示には東日本大震災の復興と埋蔵文化財保護の一環で
 発掘調査が進められているそうです。
 福島、岩手、宮城の遺跡も展示されています。

 同時に「発掘 江戸の華」
 として東京都内で発掘調査されたものが展示されていました。
 ・新宿区法正寺遺跡からの埋葬品は江戸後期の化粧箱などで、
  女性の埋葬品で大事に使われた遺品だとわかります。



 ・港区毛利家屋敷跡遺跡からは永楽通貨や、かわらけが出てきました。
  今の六本木ヒルズ辺りから出たのですね。
 ・港区汐留遺跡からは伊達家屋敷の肥前染付磁器がざくざく。



  染付の大皿47点が並ぶと壮観です。
  化粧道具51点、京焼の小さなものたち18点。
  どれもが愛らしくて雛飾りにしたくなります。




 ・他に新宿区市谷本村町遺跡から鬼瓦、
  千代田区飯田町からは色絵鏡台20点などなど。
  理兵衛焼というやきものがあったことを知りました。

 折良く夜のテレビ番組、バクモンで江戸博の放送があって
 驚喜しました。来週続編もあるようです。
 常設展では写真がOKなところが多いので、ご紹介します。
 
 江戸博、企画展の素晴らしい展覧を見た後、ちょっとタイムマシーンに乗って
 昔の日本を旅してみるのもおおいに愉快です。 

  江戸博のサイトはこちら

  また、江戸博で出している、機関紙、江戸東京博物館NEWS vol、81に
  歌舞伎座のコーナーの記事が掲載されてました。
  館長エッセイで、開館20周年記念に寄せて、
  「誕生の日を思い起こして」という一文が紹介されています。
  今は亡きお二人、12代團十郎さんと18代勘三郎さんに開館のお祝いに
  三番叟を踊って頂いたこと。
  また、團十郎さんからは助六の展示にアドバイスをもらったり、
  実物大中村座が大変お気に入りで、こういう江戸の芝居小屋でお芝居をしたいという夢を
  叶えたのが「平成中村座」興業につながったとのこと。
  江戸博との縁の深さを感じさせてくれるお話でした。
  























たまには家族や友人たちとあれやこれやとワイワイ体験するのも
楽しい時間でしょう。
様々イベントも企画されてます。
あの天井の高い吹き抜けの大空間で日本の歴史の河を下ってみるのも一興です。
ぜひ!

エミール・クラウスとベルギーの印象派 ・東京ステーションギャラリー

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 東京駅のステーションホテルなどリニューアルされたときに
 ステーションギャラリーもオープンして
 色々な展覧会が開かれてきましたが、
 まだ行ったことがない状態に早いところいきたいもんだと
 思ってましたが、ようやく念願叶って
 雨ザーザーの日に行ってきました。
 エキなか美術館で傘いらず、雨の日など悪天候の日に
 ホッとさせてくれる空間となること請け合いです。
 勿論、アクセス抜群、
 ここは東京駅界隈のオアシスエリアとなることでしょう。

 そこで、初訪問の展覧会はベルギーの印象派。
 そもそもベルギーに印象派がいたことも驚きです。
 また、エミール・クラウスって、どんな画家かまったく知らず、
 ただ広告の絵にどこかひかれる気配がありました。
 クラウスの絵には不思議な静かな波状の光と共に
 人びとの生活からこぼれる温かさが胸の内に
 迫ってくるのでした。
 いわゆる印象派というイメージの光とはまた違った、
 農耕の草むらの匂い、川面を抜ける風のそよぎ、
 日常の営みから聞こえる人びとの声、
 動物たちの体温、
 生きている命の輝きが自然界を通して輝いて見えるのです。

 ちょっとアンドリュー・ワイエスのタッチも思い出します。
 
 <ギャラリーのサイトから>
 ベルギー印象派の画家、エミール・クラウスについての日本初の展覧会を開催します。
 1849年に生まれたエミール・クラウスは、フランス印象派などから影響を受け、
 独自のルミニスム(光輝主義)といわれるスタイルで、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍しました。
 太田喜二郎、児島虎次郎という2人の日本人画家がクラウスに教えを受けたことでも知られています。

 ベルギー近代美術史の展開を考えるうえで、また印象主義の国際的な伝播という観点から見たときに、
 そして日本への影響という意味でも、非常に重要な画家であるにもかかわらず、
 これまで日本ではクラウスをテーマにした展覧会は開かれてきませんでした。

 本展は、フランス、ベルギー、日本の印象派の作品とともにクラウスの代表作、
 あわせて計65点を展示し、国際的な印象主義の展開の中にこの画家を位置づけ、
 陽光あふれる田園の情景や、自然の中で暮らす人々の姿をいきいきと描き出したクラウスの魅力に迫ります。

 ・・・・・

 以上のような案内からもわかるように、
 日本画家たちがベルギーに訪ねてクラウスに学んでいたことも驚きでした。
 会場にはベルギー印象派に影響を与えた
 元祖フランスの印象派代表作家の作品が並びます。
 ベルギーの画家たちとは初見ですが、
 ピサロ、モネ、シニャック、等が同時代作家として紹介されています。
 日本からは直接指導してもらった、
 児島虎次郎、大田喜二郎が日本の画題で挑戦しています。

 それにしても、クラウス、
 太陽光に向かって、逆光にカンバスを置いて
 「光」の探究を続けてきます。
 日本語では「光輝主義」と訳されてきたとか。
 第一次世界大戦のあの時代に彼独自の光を描こうとした
 信念さえも見えてきたのです。

 画面を見ていると
 光の放射状が緻密に描かれ、その筆跡が光の分子に見えてきます。
 甘美な豊かさとは離れた、
 クラウスは一過性の流行を表面的になぞることはなかったそうで、
 その強い意志も太陽に向かって座り続けたエネルギーを
 とても静かに、ゆっくりと、愛情深く、
 自然界と人間の営みを包み込んだ神々しささえも感じます。

 初めてのエミール・クラウス。
 図録をもう少し読んでどんな人だったのか、
 知りたくなりました。
 黒田清輝も関わったようです。
 今後、クラウスの画業にもっと光が当たることを願ってやみません。

 国内でも所蔵しているところは
 姫路市立美術館、大原美術館が代表しているようです。
 
 作品にはどの作品にも光を浴びた温かさが満ち満ちています。
 「タチアオイ」
 「月昇る」
 「日の当たった木」
 「野の少女たち」
 他にも紫陽花や、雲ノ間からみえる太陽光などをみれば
 きっと柔らかな空気に包まれることと思います。
 7月15日までの会期にぜひお出かけしてみて下さい。









 東京ステーションギャラリーのサイトはこちら。

東京国立博物館 東洋館 (7月3日訪問)

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 先週、久しぶりに東京国立博物館の東洋館に行ってきました。
 やはり時々見に行かねば、とまた強く感じました。
 以前の東洋館へも時々見に行ってましたが、
 今年年明けにリニューアルされた東洋館を拝見して、
 展示の美しく見やすくなったことの
 衝撃が大きかったこと、思い出します。

 それで、またカメラOKのところで撮影してきました。
 中国の展示に時間を割いてみてきました。
 どれも横川民輔氏、広田松繁氏両氏の寄贈品が多いことを
 再確認します。

 中国の俑、陶磁などはほとんどが両氏からのもので、
 その質、バランス、品格にため息です。











 中国絵画の展示には怪しい作品が展示されていて
 とてもご機嫌になりました。
 変ずぎました。

 新しく所蔵品となった白衣観音図も見ることが出来ました。










 
 他に目についたものをご紹介します。
 寒山拾得蝦蟇鉄拐図。
 伝 劉俊筆 明時代
 蝦蟇の図はようくみると画面の右隅に蝦蟇が赤い徳利から吹き出して
 すぅっと飛び出しているのが見えます。
 引力ありすぎます。じっと見てると絵の中の蝦蟇にされてしまいそうです。













 この4幅並んだ妖しさは山雪の寒山拾得図を彷彿とさせてくれました。

 赤い金魚のような魚が糸に繋がれたネックレス。
 魚は福を呼ぶ縁起のいいものだとされたようです。



 今回一番ビックリしたのが、
 この五百羅漢図絵巻です。明から清時代のもの、くらいしかわかりません。
 ともかく墨の線描だけなのですが、妙な得体の知れない此の世の
 生き物とは思えない有様でした。









 書の展示にはキリッとした文字の後ろに
 美しい飾りを配しているのが目に止まりました。



 そして、これはやきもので陶笛、とのこと、
 本体の穴をうまく塞いで音を出したのでしょうけれど、
 どんな音がするのか、オカリナみたいな音でしょうか?
 聴いてみたいものです。朝鮮の統一時代、8〜9世紀のものとされています。



 私が欲しいものはダイヤモンドではなく、
 翡翠の勾玉。なんとも生き物の一番の原形ではないかと思うその形が
 美しい翠となって永久を保証してくれます。



 お時間があれば、特別展だけで終わらずに
 本館の展示とあわせてぜひ「東洋館」も覗いてみて下さい。

 その日は時間に余裕がなかったので、地下に回らずに本館に移動しましたが、
 来館者の少ないこと。
 海外からのお客様がほとんどでした。
 今後も忘れないように、時々立ち寄りたい大好きな場所です。

東京国立博物館 本館 (7月3日訪問)

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 トーハクの東洋館を見た後、本館に行ってみました。

 ここは何年通っても底が知れないとは毎回驚かされ続けます。
 今回も面白いモノ続々発見でした。

 *国宝室には「法華経一品経」(慈光寺経)
  美々しい料紙に美しい文字が並び、さぞ高位の方のものだと
  感じ取れます。
  平家納経に続く鎌倉時代前期の装飾経典の代表とされているそうです。

 *宮廷の美術
  こちらには「鳥獣人物戯画断簡」
  国宝になっている高山寺のものから分かれた断簡だそうです。


  「駿牛図巻断簡」もともとは牛の図が十図あるそうですが
  その一図。何年か前にサントリー美で開催されたシアトル美展に
  その兄弟を見たことを思い出しました。
  他、五島美に赤牛図があるようです。
  表装に牛車の片車輪をあしらった布を使っていて
  持ち主の拘りに触れる思いがします。



  世界に散らばった牛の図が十図並ぶことはないものかと願います。
  「馬医草紙絵巻」こちらも駿牛図と同じ頃の鎌倉のもの。
  貴族が用いるのが牛ならば、武士達には名馬を持つことが大事なこととなりました。
  その飼育に重要な薬草とか守護神などが描かれているそうです。
  人の足となった牛、馬への愛情も垣間見れます。








 *茶の美術 広田松繁氏からの寄贈品展示
  こちらは初夏のしつらいを感じます。
  目にも清々しい古染付の白と青がさわやかです。
  古染付山水文葉形皿、御所車図六面皿は明時代の景徳鎮窯。
  網目魚文徳利、捻文杯、呉州染付飛馬文杯三点のコラボ。







  一点、黒楽がありました。黒宅茶碗 銘かのこ斑 一入
  一入の黒は下地から赤がぼうっと浮かんで見えてきます。
  そこが一入の最大の魅力でしょう。



  出光美で開催された古染付展につながります。

 *屏風や、書画のコーナーは前回記事にしました。

 *浮世絵
  ここの展示コーナーは入ってビックリしました。
  国芳の個展コーナーになっていたからです。
  今回、平成24年度新収品の紹介期間で、その一環の展示となっていました。
  通俗水滸伝豪傑百八人シリーズ。
  目が血走ってしまいます。
  iPhoneで全部撮りたくなりましたが、少々遠慮ましたが、
  こってりご紹介します。
  作品リストをリンクしておきます。こちら





















 *一階の目に止まった近代絵画のコーナーには
  浮世絵の新しい時代を築いた川瀬巴水の東京12題の連作10作が並びました。







  山種美術館で開催中の川合玉堂の大作が展示されていました。
  「家鴨」
  また山種の看板画家、速水御舟の若い頃の作品、「紙すき場」
  には今村紫紅の色、構図には坂本繁二郎を参考にしたとされているそうですが、
  後の御舟の絵の雰囲気からは想像出来ない作品で驚きました。



  また、堂々たる近代の獅子がいました。
  唐獅子 前田青邨 
  この屏風は昭和天皇即位記念に獅子図屏風を献上していますが、
  それに先立つ大正期の制作とされているようです。
  とても現代的で、戯画的、イラスト的だと驚きました。
  この兄弟の獅子が静嘉堂にいましたね。






 *特別企画からは平成24年度新収品の展示がありました。
  詳細リストはこちらから
  赤壁賦 本阿弥光悦筆 


  無地刷毛目茶碗 銘冬頭 朝鮮



  蘭図扇面 池玉蘭 



 またまた国芳がいました。







 こうして今回も新しいお宝をたっぷり拝見し、
 国芳のパワーに圧倒させられました。
 閉館のお知らせが流れるまで楽しみましたが、
 いざ、帰ろうとしたら突然の夕立。
 しばし躊躇しましたが、雨脚の落ち着くのを見計らって
 我が家を目指したのでした。

 そろそろ上野公園不忍池の蓮の花を見に行きたい季節となりました。
 
 そして、いよいよ名筆の展覧「和様の書」展が迫ってきました。
 書の展覧はなかなか漢字の国日本人のくせにちっとも読めない、
 そういう大きな壁がつい関心を遠ざけてしまうのですが、
 美しい気配、それだけでも鑑賞に堪えるものですから、
 楽しみにしたいと思います。
 特設サイトはこちら

 酷暑の避暑にトーハクに逃げ込んでお宝の魔法の国で遊ぶのも
 面白い夏の過ごし方となることでしょう。

ファインバーグ・コレクション展江戸絵画の奇跡・江戸東京博物館

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 今、有り難い事に東日本大震災の応援にプライス御夫妻による
 プライスコレクションが東北を巡回中で、
 鑑賞したみなさんは大いに元気をもらっていることでしょう。
 そのコレクション収集の素晴らしさを東京国立博物館で
 心底驚嘆したことを思い出します。

 プライスさん御夫妻のように、アメリカの日本美術愛好者である、
 ファインバーグ御夫妻のコレクションを展覧する展覧会が東京江戸博物館で開催されました。
 (15日で閉幕)
 紹介サイトやらで期待の胸を膨らませて、前期、後期とみてきました。
 その記事を上げようとしたいたら、
 夏風邪を長引かせてしまったり、他にも落ち着かない日々があって、
 すっかり間の抜けた記事になってしいますが、
 それはそれは素晴らしいコレクションだったので、
 遅ればせながら、残そうと思います。


 個人のコレクションはその収集家の人柄が作品群から立ち上ってきます。
 ファインバーグ御夫妻が日常生活空間にこのコレクションを飾り、
 愛でてきた紹介映像が江戸博内で放映されていました。
 美術品が常に生活と共にある、落ち着きのある豊かさが
 室内に飾られた作品から伝わってきます。
 品格のある豊かな暮らし、それを現実に過ごしている、
 本来のセレブな生活とはこういったことではないかと心底思いました。

 会場に入るといきなり宗達のゆるい虎さんに迎えられます。
 ずるい招き虎小僧です。虎かぶりですわ。

 1,日本美のふるさと 琳派

 光琳に小品、白菊と雪蘆団扇図二幅
 後期は乾山の白百合の団扇図
 深江廬舟、芳中、俵屋宗理、等が続きます。

 酒井抱一の十二ヶ月花鳥図
 この十二ヶ月花鳥図はプライスコレクション、宮内庁、
 出光、畠山、香雪美術館に同種類のものがありますが、
 色鮮やかなのは宮内庁ものでしょうけれど、
 次にすばらしいのはこのファインバーグコレクションではないでしょうか。
 そんな気持ちにさせられた逸品で
 ズラリ展示されたのはとても豪華な気持ちになります。
 プライスコレクションはエツコさんが所望されてジョーさんが
 贈ったものというエピソードが羨ましすぎます。
 
 其一による群鶴図屏風。
 この群鶴図もよく光琳から継承される画題。
 其一は光琳の紅白梅図の波頭デザインを継承し
 鶴に躍動感を見せつつ、色の配置にはとてもクールな
 計算を見せつけているように思えます。
 クールななかに執着が見えるところが其一だと強く感じます。

 其一の大江山図の瀧の直線と松桜のうねる配置、
 目にも鮮やかな朱の袴の色、ここにも構図の計算がみえて
 ただ者ではないな、と嬉しくなるのです。

 その弟子、守一の
 「平経正弾琵琶図屏風」
 この源頼朝似の経正は琵琶の名手とかで、
 琵琶を弾いていたら竹生島明神が白龍となって現れたとの
 スペクタクルな画面に引き込まれてしまいます。

 琳派の名手が小襖に描きます。
 宗達の松島図に倣った其一の松島図小襖
 神坂雪佳の三保松原図小襖
 雪佳は愛らしい四季草花図を後期に二幅並べました。

 2. 中国文化へのあこがれ 文人画
  
 ファインバーグコレクションは池大雅をはじめ、
 文人画をお気に入りだったのか、力作が集まっているように思いました。
 池大雅の大迫力の水墨画屏風、「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」
 こんな大作を初めて見ました。
 どんな物語なのかと無知を悔しく思いますが、
 ざざっと筆の走る勢いに引き込まれました。
 与謝蕪村、浦上玉堂、等が並ぶ中、
 中村竹洞の「四季花鳥図」4幅は落ち着いた静かな作品でした。
 紀梅亭の線の描き込みの緻密な奇景には驚きました。
 岡田米山人、山本梅逸、横井金谷、という珍しい作家作品も
 拝見できました。
 その後に谷文晁が現れ、その「秋夜名月図」の巨大な落款につい
 笑ってしまいます。
 「富士真景図」の堂々っぷりも併せてみなぎる自信が小気味良く
 鑑賞者を愉快にさせてくれます。

 岡本秋暉「蓮鷺図」の鷺の目の妖しさといったら、白い羽根を纏った
 黒鳥の気配です。
 お気に入りとしてマークしました。
 また、福田古道人、奥原晴湖、渡辺玄対、という作家の名前を初めて
 知りました。
 ファインバーグコレクションの大きな位置を占めている、
 中国文化系の作品群でした。

 3,写生と装飾の融合 円山四条派

 このコーナーの充実ぶりも忘れられません。
 四条派といえば応挙から始まり、
 その弟子達の作品が並ぶわけですが、
 応挙といえば孔雀、その名品を押さえているところはさすがとしか
 いえないと感心しました。
 また、「鯉亀図風呂が先屏風」
 風呂先そいえば茶釜の向こう側に置くものですが、
 夏の暑い最中の茶事にどれだけ涼風を与えてくれたかと
 透けるむこうの光も絵に取り込むあたり、流石の工夫です。
 ちょろちょろと流水の音も聞こえてきそうです。
 動物画の巨匠、猿を得意とした森狙仙、
 睨まれたら捕まりそうな鷲の岸駒、
 紅葉した楓に白い羽根のオウムを描いた岸岱
 その中で鶴と鹿の広々とした自然公園のような襖絵がありました。
 森狙山の甥、森徹山の作品です。
 何をやってもカッコイイ柴田是真の「二節句図」二幅
 なんと是真83才の作とか。
 鄙びた農家の雛祭り、貴族の端午節句を描いてその対比が
 面白いけれど、淡々と品良くまとまっているのでした。
 その隣にぎょっとした月が見えました。
 鈴木松年。上村松園さんの師匠ではないですか。
 「月に雲図」今までの日本画にはない、近代的な
 何かが起こりそうな緊張した気配があって、引き込まれました。
 ただ月と雲、それだけなのに、ドキドキしました。
 解説には急な雨に蓑を借りに行った先で
 蓑(実)もなく一輪の山吹を差しだしたという古歌に倣ったという
 山吹の花を描き表装にしたとのこと。
 そういえば、浮世絵にもそんな画題があったように思います。
 後期にはその場所に竹内栖鳳の描く「死んだ鶴図」 
 タイトルに死んだ、を付けなくとも、思いつつ、
 迫真のリアルにいよいよ栖鳳達の西洋への学習意欲がみなぎるものでした。

 4,大胆な発想と型破りな造詣 奇想派

 いよいよ奇想江戸絵画の人気絵師達が集合しました。
 先ずは山雪の屏風です。
 山雪の画業に惹きつけられて京都まで日帰りした五月を思い出しました。
 「訪戴安道・題季欵幽居図屏風」(ほうたいあんどう・だいりかんゆうきょずびょうぶ)
 解説を読まないとどういった場面なのか、わからないのですが、
 不気味な静けさと独特な枝の表現をみつける事が出来ます。
 書家であり、詩人が友を訪ねるも
 門前まで来て興が冷め引き返したという逸話が元になっているそうです。
 前期・後期で右隻、左隻が展示されました。
 その並びには若冲の菊、松が掛けられ、
 奇想画家のコーナーに相応しい場面でした。
 視線を後ろに向けるとなんと、
 簫白の「宇治川合戦図屏風」が異彩を放っています。
 それでも簫白の中では大人しい方ではないでしょうか。
 平家物語の梶原源太景季が乗る名馬麿墨(するずみ)と
 佐々木四郎高綱が乗る名馬生唼(いけずき)の場面。
 大人しいといってもやはり一々くどくて嬉しくなります。
 意表を突かれたのは「大黒天の餅つき図」
 なんと軽妙でユニークなセンガイさんタッチなにこやかになる表現です。
 後は廬雪が奇想コーナーを締めます。
 廬雪描く動物たちには愛情を感じます。
 「梅・薔薇に群鳥図」「藤に群雀図」
 この連作はとても精密に丁寧に一気呵成のものとはまったく
 違った鍛錬がみられました。

 5.都市生活の美化、理想化 浮世絵
 
 コレクションラストを飾ったのは浮世絵師達の優品群
 先ずは展覧の中では一番古い作品、安土桃山から江戸時代の作とされた
 「南蛮図屏風」作者不詳ですが、港の交易現場を賑やかに演出しています。
 山楽、山雪の時代を彷彿とします。
 物珍しい画題は評判になったに違いありません。
 後期には菱川師平の「花見遊楽・吉原風俗図屏風」が替わりました。
 英一蝶の「若衆と遊女図」の軸装の艶やかさも目に止まりました。
 遊女が描かれた軸装は遊女と張り合うような艶やかな布が使われて
 それも大切な楽しみ方です。
 懐月堂派の美人図が現れて喜びました。
 勢いのある衣装の描き方、しなやかさというよりは
 気っ風の良い力強い女性の立ち姿です。
 磯田湖龍斎「松風村雨図」三幅 
 モノクロの中に顔面だけが白々とした幻想的な作品です。
 貴公子に恋をした姉妹の図であっても色数のない
 渋い暗澹たる画面にその恋の行方さえ案じてしまいます。
 歌川豊春の立派な大作、「春景遊宴図屏風」
 日本絵画にも遠近法が用いられ、遠景の描き方、
 手前の描き方に工夫が見られます。
 そういえば、酒井抱一は当初浮世絵を学んでいたことを
 思い出しました。
 酒井抱一「遊女立姿図」
 歌川豊春の特色を受け継いでいるそうですが、
 とても品の良い姿は何をやっても酒井家の血筋がさせるのでしょうか。
 珍しい作品、三畠上龍「舞姿美人図」
 この画家は京都の肉筆美人画を得意としたそうです。
 当代玉三郎さんの面影を見ました。
 京都の画家がもう一人。
 祇園井特「化粧美人図」下唇の青い当時流行のお化粧をしている
 女性の姿に江戸にはない雰囲気があります。
 広重「隅田河畔春遊図」
 筑波山を遠景に桜の花見の頃、桜餅を食べていたのでしょうか。
 全体に柔らかな雰囲気が漂います。
 ラストに北斎「源頼政の鵺退治図」
 北斎も簫白と同じく平家物語を取材した作品でしたが、
 北斎は源頼政が弓を引く姿を描きました。
 矢の先には鵺がいたことでしょうが、北斎はそれを見る人に想像させます。
 北斎88才老人卍筆のみなぎる力を大迫力で描ききります。
 
 こうしてファインバーグコレクションを前期・後期と見る機会に恵まれたことを
 心から喜んでいます。
 全体に広がる安定した質感とぶれのない視線と
 その格調の高さに感嘆しました。
 また、日本の近代化していく瀬戸際の時代を
 改めて評価したくなるコレクションでもありました。
 煌びやかな派手さは控えめであっても
 実際の生活の中で愛でてきた、日本美術を愛し続けてきた
 御夫妻の情熱がひたひた伝わってくるものでした。

 コレクションを始めたのが1970年代だったということ、
 日本美術史の専門の小林忠先生との旧交があったこと、
 様々なエピソードも図録から読むことが出来ました。
 これから日本を縦断し、展覧会が開催されます。
 夏休みにはMIHO MUSEUM
 その後鳥取県立博物館へ巡回します。

 日本国内でプライスコレクション、ファインバーグコレクションが
 ぐるぐる日本を駆け巡っていることも
 なんだか奇遇な特別な一年なのではないかと
 有り難い気持ちに満ちてきます。

 日本美術は私たちの国だけのものではない
 世界のものだとビッグコレクターに教えてもらっているようです。

 詳細はこちらをご参照下さい。 

 追加* MIHO MUSEUM のサイトはこちら

生誕250周年 谷文晁展 ・サントリー美術館

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 江戸時代後期の江戸の絵師、谷文晁の展覧がサントリー美術館で始まっています。
 この文晁という人の画業のことは漠然としていてわからないのですが、
 展覧会で江戸絵画が紹介される中で、いちいち引っかかっていました。
 しっかりとした画業を裏付けるようなぶれのない、淡々とした表現に
 同時期の奇想絵師や、琳派の継承者達の中にあっても
 クールさが際だって逆に印象に残るのです。

 先月東京江戸博物館で開かれた、ファインバーグコレクションの中にも
 堂々とその技を見せつけていました。
 あの飄々とした富士山、
 でかでかと印章の朱をこれ見よがしに押してある秋夜名月図など。
 
 また文晁の交友関係者の面々が超一流な人達ばかり。
 木村兼葭堂、大田南畝がいたり、
 お弟子さんにあの、渡辺崋山、田能村竹田がいたり。
 酒井抱一とは交友関係があったり。

 今回のちらしの「この絵師、何者!?」
 その通りだと思ったのでした。

 何年か前に今は閉店してしまった銀座の松坂屋で
 紫式部展開催の時に「石山寺縁起絵巻」が展示されていて、
 その時に谷文晁という名前を刻みました。
 荒れ狂う海の波打ち際で馬と溺れそうないなるシーンがとても印象的で
 記憶に残りました。

 皇室にも虎の図が収められていたことを思い出しました。
 
 今回の展覧でいよいよその全貌が見晴らせるのでしょうか。

 谷文晁
 1763ー1840 徳川御三家の田安家に仕え、松平定信付となって
 その御用を多く務めた。中国画や狩野派、やまと絵などの古画、
 南蘋派や洋風画などあらゆる作品を学び、多種多様な作品を残した。
 門下には渡辺崋山、椿椿山など多くの弟子を輩出、
 江戸画壇の大御所として文人画界に大きな影響を与えた。
 (皇室の名宝図録の解説より抜粋)

 透明感のあるしっとりとした寛政文晁(前期)
 柔軟な筆墨による力強い作風の烏文晁(後期)に大別される。
 全国の名山を写生して「名山図譜」を著作。
 「秋夜名月図」は広重が「江戸高名会亭尽」のなかの
 一図の画中に文晁の署名があるこの秋夜名月図を描いていて
 広重はこの絵を見ていた可能性が濃厚である。
 (ファインバーグコレクション展図録より抜粋)

 「江戸時代の画家は誰もが最初は狩野派なんです。
  師、文麗の字をもらって狩野派を表看板に掲げていた
  文晁は、江戸絵画の大きな潮流に乗っていたといえます」
 「文晁の作品で有名なのは重要文化財<公余探勝図巻>でしょう。
  松平定信が海防警備のため江戸沿岸地域に視察に出掛ける際、
  今でいうカメラマンの代わりに文晁をつれて各所をスケッチさせたのです」

 また、古美術品に関心を持つ定信の命で文化財保護の調査に派遣され、
 全85巻の「集古十種」の編纂では1859点の文物の模写に従事しました。
 さらに定信の命で<石山寺縁起絵巻>の6,7巻を補完することとなります。

 「朝は早起きして描いて、夜は吉原に行っても一杯飲んで早帰り、そのあたりは
  親しく交流していた抱一とは違いますね」
 「彼はお酒が好きで、自分のブランドを作ったほど。
  彼のパトロンであった江戸一番の料亭八百善によく仲間と集い、
  「江戸流行料理通」などに挿画を描いています」
 (SUNTORY MUSEUM of ART NEWS vol,245 より
    「」は河野元昭先生インタビューより抜粋)
 
 彼方此方から文晁のプロフィールやらエピソードを
 取り込んでみました。どんな人なのか少し見えてくるような気がします。
 
 会場の構成は
 様式のカオス、
 画業の始まり、
 松平定信と「集古十種」ー旅と写生
 文晁と「石山寺縁起絵巻」
 文晁をめぐるネットワークー兼葭堂、抱一、南畝、京伝
 という章立てで文晁が生きてきた時代をなぞるようになっています。
 松平定信の堅実な目となり、それを写してきた文晁の世界は
 雄大な名山の写生に裏付けられた壮大さが魅力の一つなのではないかと
 富士山図屏風をみて感じました。
 丁寧な描き込みも素晴らしいけれど、
 墨の悠然とした画面にとても惹かれました。
 また、石山寺縁起絵巻の再会も嬉しく、
 その全貌を見届けることが出来たのも大収穫でした。
 また、交友関係の濃厚さは驚きですが、
 夫婦で扇面に絵を描いたり、微笑ましい一面も見られました。
 抱一との仲良しぶりも楽しく、
 その近くで其一もふらふら登場していたのではないかと
 嬉しくなります。其一はきっと文晁を眩しく思ったのではないかと。
 弟子達集合図の中の渡辺崋山の妖しさも印象的でした。
 8月25日までが会期ですが、7月31日から大きく展示替えがあります。 
 もう一度その偉業の一端を掴みに行きたいと思っているところです。

 サントリー美術館の展覧サイトも充実です。こちら。
 上野恩師公園内の一角に谷文晁の石碑があります。
 東博巡りの時にぜひチェックしてみて下さい。

福田美蘭展 ・東京都美術館

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 時々思わぬ展覧に出くわします。
 意表を突かれたというか、やられた、というか。
 その驚きが体全体の血流を元気にします。
 そんな展覧に行ってきました。

 「福田美蘭展」

 どういった方なのでしょう?

 何も知らないで見るという事のワクワク度は想定外で
 それも目に入る景色が一々面白いので
 どんな人かは後で検索します。

 同時開催のルーブル展と同じチケット売り場ではないので注意です。
 会場入り口で求めます。
 エスカレーターに運ばれて地下に潜ります。
 
 正面に福田美蘭展のパネルがあり、その横に長い長い胡蝶蘭が
 あって、そもそもこういうキッチュ系で掴みをとられるわけです。
 まずはここが魔界であることを教えてくれるのです。
 会場最初に見るのは
 「銭湯の背景画」
 私の母の実家は銭湯と鉄工所でしたから銭湯には懐かしみがあります。
 銭湯の背景画といえば富士山ですけれど
 この背景画にはその背景としてのアイコンが沢山隠れています。
 とても日常的な商品ロゴが富士山の中にこっそり収納されています。
 何が何個隠れているのか、さ、どれだけ見つけられますか?
 制限時間を設けると一層楽しみ。

 解説キャプションはご本人によるものなので、それがまた一々痛快です。

 1,日本への眼差し
  本当はこんな事やっていいのか?悩ましいぐらい立派な絵画をいじってしまいます。
  黒田清輝の超有名な湖畔はカラーコピーされて、その続きの広がる景色をぐっと
  拡げてしまいます。確かに本作よりも広々してしまいます。
  掛け軸三幅はディズニーと共生、日輪はハートに、鯉は裏返しの死んだ鯉も。
  またまた北斎の富嶽三十六景の神奈川沖波裏として、
  本作を裏返ししてしまうことで木版にされる前はこんな景色だったのだと
  知らされるのです。
  工芸も面白いチャレンジを見せてくれます。
  つまみ簪の地球儀、市松人形の白人黒人モデル。
  レンズが鼈甲のサングラス、象牙製のマクドナルドスプーン、マドラー、ストロー
  誰も鑑賞者の皆さんが笑っていないので声は出せなかったのですが、
  あきれにあきれて大爆笑ものです。(絶賛しているのです)
  福田美蘭さんは史上最年少で安井曾太郎賞を受賞しています。
  その人が安井曾太郎さんのタッチで「安井曾太郎と孫」というタイトルで
  安井のレアリスムを考えてみたかった、そう言っています。
  またまた大原孫三郎の雪舟の山水図好きを思い、
  大原家別邸の有隣荘をなどを置き換えてみたりしてしまうのです。

 会場はまたエスカレーターで下ります。

 2.現実への眼差し
  ベラスケスのマルガリータを侍女の視点で描いたという絵画を
  「新宿少年アート」に参加して制作したポケットティッシュ。
  こともあろうに、ベラスケス風のティッシュ。
  その次はメトロカードに使用されたサリン事件。
  なんて危ないカードでしょう。
  この章は事件性が強くなっているようです。
  Oー157をぬぐうハンカチ、買い求めなければならなくなったゴミ袋、
  ニューヨークツインタワービルがパンチされたベニヤ板の穴が
  星になる夜景。
  9,11後、人の話しを聞こうとしないブッシュを説得できるのは
  もはやキリストしかいないのではないかと、キリストが話しかけている。
  阪神淡路大震災の残された写真から大きく育って欲しいと願う満開のハクモクレン。
  天皇皇后陛下のバンザイクリフで黙礼する図はニュースでその現実に
  向かうお二人の姿は私の目にも印象的だった、
  その絵の未完成をそのままにして完成作とした。
  不動の桜と富士山の図をもしかしたら噴火してしまった後はこんな富士山に?
  という固まったイメージへの思い。
  今は飛行機に激突されてしまった世界貿易センターの眺望、
  真っ白なスパティフィラムの鉢に刺さった切断された母親の腕、
  今、現代に起きた大事件を美術家はどう向き合ってきたのか、
  そういった視点で事件と関係してきた現実的なリアルな社会派的作品群でした。

 3,西洋への眼差し
  この福田美麗という画家は何でもやってしまうのです。
  西洋画に対しても、こんな場合はどうか、という一種危ない発想とも思えるようなことを
  熱心にやり遂げてしまいます。
  床に置いて踏みつける絵画、天井の隅に投げ飛ばされたような位置に
  すっぽりはまった変形した肖像画、
  3Dのような立体絵画、冷蔵のの中に入れてしまう絵画、
  もしかしたらドラえもんのポケットにレンブラントの肖像画、
  ぶれたらレンブラントの夜警図は鑑賞者とともにどうなったか、
  ミレーの種まく人の腕の動きの変化を描いてみる、
  フェルメールの青いターバンの少女を鑑賞者と共に
  原寸大で報道写真とはを考える、
  あの、セザンヌのリンゴとオレンジを美大受験の講師の視点で
  画面の中に解説分析添削を堂々と描き込んで評価B をつけてしまう、
  モナリザのモデルを休憩させたら、という画題にしてしまう、
  はたまたルーベンスの三美神の絵を洗浄したら中から現れたのは
  ディズニーのアリスが現れた、
  折りたたまれた額縁を拡げてみる風景画、
  美術館ではあり得ない体験型鑑賞絵画、
  もう、様々なチャレンジを巧みな画力でやってのけてしまいます。
  アカデミックな世界からはどんな評価がぶつけられるでしょうか。
  そんなことはお構いなく、マリアもキリストも無残にいじられてしまうのです。
  ですが、破綻していなく、絵画としての立ち位置がしっかり伝わってきます。
  何者ですか?

 4,今日を生きる眼差し
  このパートが一番重量感ある作品群でした。
  これまでの作品で大体どういったことを狙って絵画にしてきたのかが
  おおよそつかめたように思いますが、
  吹き抜けの天井の高い一番底から見上げる場所に大作がずらり居並びました。
  壮観な眺めでした。
  西洋東洋の間を自由にくぐり抜け、描く狙いをしっかり見定めて
  重層に画題を描ききります。
  聖ゲオルギウス、受胎告知、アダムとイブ、などを体の移動の経緯を見せます。
  磔刑図ではなにやらコラージュのような蠢いたもの達が描きこまれます。
  狩野芳崖の悲母観音図の球体の中にいる嬰児を取り出し、
  悲母観音の胸に抱くことによって、
  背景の東北の大震災の被災地への思いを描いた、秋ー悲母観音の図に
  生々しい母性の温かさを感じることが出来ました。
  画家の父親が亡くなって届いた白い花々を世話する間に
  ゴッホの薔薇の強さを感じたという、冬ー供花
  震災後、作品を通して向き合う一歩となったという残酷なほど白い様々な花籠に
  祈りを込めたのでしょうか。
  東博のファンである私にとって嬉しい作品が目の前に現れました。
  紅白芙蓉図
  東博の遠景を背景に東洋館の名宝、紅白芙蓉図が白から紅に変化する過程を
  本作の模写のように緻密に描ききります。
  琳派の巨匠、宗達の風神雷神図を福田美麗が引き受けます。
  キャプションに驚きます。
  「画面内に収めない緊張感のある構図と動きを生み出すポーズ、
   おおらかな描線とユーモラスで親しみのある楽しさが生命感と
   躍動感を生んでいる。光琳に受け継がれなかった空間表現や感情といった
   絵画的要素を抽象的、感覚的にとらえようと思った」
  抱一がみたらなんと思うことでしょう?
  しかし、琳派の息づかいは荒々しく、破天荒で暴れています。
  躍動感、それが重層的に息づいていました。
  オリジナルな継承を見た気がしました。

  眼をちょっと上に上げるとバルコニーに誰かが立ってこちらを見下ろしています。
  なんと、この都美の設計者、前川國男さんのパネルでした。
  前川さんへのオマージュでこの展覧をみてもらっているという工夫に
  どこまでもユーモア精神の豊かな作家さんだと嬉しくなったのでした。

  最後に東日本大震災文化財復旧支援事業として
  オフセット作品を3タイプ販売し、その全額を寄付するということでしたので、
  一枚求めて小さな支援参加をしてきました。

  福田美蘭展の図録はこの会場でしか販売していません。
  1300円で、本展の作品と、画家の辿ってきた道を知ることが出来ます。
  都美のミュージアムショップでは求めることが出来ないので
  注意が必要です。
  震災支援のオフセット販売はミュージアムショップだけでした。
  
  
 都美のサイトはこちらです。 
  
 会期は9月29日までです。
 
 一筋縄ではいかない、強烈に自由な発想を技量と画力で表現できる凄さを
 じんじん感じました。
 また、破格に痛快愉快なだけではなく、しっかり社会の暗部とも共生感を持てる
 眼を感じます。
 いつもとまったく違う脳波がピクピクしたとても興味深い展覧でした。

 福田美蘭さんは、あの福田繁雄さん(2009年に他界)のお嬢さんだったのでした。
 なるほど。自由な視点は環境からも生まれ育つのだと感じ入った次第です。
 私よりも6つお若いのでした。

 何はともあれ、現物の作品からあふれるユニークさと力強さを体感した
 破天荒な展覧でした。

速水御舟と院展の画家たち・関連講演会 國學院大學 院友会館

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 「再興院展100年記念 速水御舟ー日本美術院の精鋭たちー」展 関連講演会
 
  「速水御舟と院展の画家たち」としての講演会に参加してきました。
 講師は、山崎妙子山種美術館館長が務められ、
 御舟の研究で博士号を取得されたご専門ならではの、濃厚なお話を伺ってきました。

 当日はなんと御舟のお孫さん達がこの日のために来日し、来場されていました。
 手描きの花柄をあしらった和服姿の館長からのご紹介に会場は温かな拍手で一杯になりました。
 御舟の娘さんは3人いらして、そのうちの三女の方がアメリカに移住されていたとか。
 この日本の最高に蒸し暑い夏によくぞお出まし下さいました、という感謝の念も
 場内に充満したのでした。
 
 また、長女の彌生さんもなんと山種美術館に展覧会初日の今日、
 お出ましされていたとか。
 遠目に館長が手を差し伸べてご案内された、あのご高齢のご婦人が
 その彌生さんであったのだろうと、同席した友人と目を合わせたのでした。
 残念ながら、体調への配慮もあって講演会にはご来場されませんでしたが、
 お元気でご存命でいらした、そのことがただすばらしいのでした。
 彌生さんは聖心会の東洋管区長をになってきたご立派なシスターで、
 美智子妃殿下の母校でもある聖心女学館との縁もあり、皇室との交流もお持ちだそうです。
 他、ゆかりの方々のご同席は、御舟を囲んだ人びとの人生をも合わせて、   
 作品を鑑賞できるではないかと思いました。

 講演のメモをまとまらないまま乱雑ですが記録として書き留めておきます。
 
 *来年、日本美術院が再興されてから丁度100周年を迎えるにあたって
  大観、観山、春草、安田靫彦、御舟、土牛、小倉遊亀、平山郁夫らの館蔵60点余りで
  院展に関わった画家たちの作品を見て頂く展覧となった。 
 *山種コレクションは1800点余りの内、土牛135、御舟120点を超えている。
  他、古径47点、大観40点
 *山種美術館創立するならと購入したのが大観「心神」
  古径も美術館にするならという条件で「清姫」
  また、山種美術館のロゴは安田靫彦の書で、
  安田靫彦は良寛の字を研究するほどで大磯の安田邸に通って揮毫してもらったもの。
 *山種美術館開館10周年記念に片岡球子の「鳥文斎栄之」を
  また、平山郁夫の「阿育王石柱」を描いてもらった。
 *明治31年に主幹橋本雅邦、評議委員長岡倉天心、で日本美術院が創立された。
  正員には大観、観山、春草ら。
  その前に天心の発案で帝国博物館(今の東博)での模写事業に参画し、
  古い仏画、牧𧮾、などを模写してきた。 
  西洋画のラフェアエロ、ミレイなども模写した観山は人体表現を研究した。
 *天心はボストン美術館の日本コレクション調査と目録作成のために渡米。
  大観、春草らを同伴し、作品展を開催し好評を得る。
 *1906年明治39年に五浦に移転、1913年に天心亡くなる。
 *そして、1914年、大正3年に再興日本美術院開院式。
  再興第一回院展開催。御舟は「紙すき村」で院友に推挙される。
  (この作品を最近東博で見た私は驚き、画面とエピソードが合致して喜んだ)
 *1920年大正9年の再興第7回院展に御舟の「京の舞妓」を出品するが、
  大観は気に入らなかったようだが、古径がそれなら私もやめるというので
  大観はそれならばと諦め、御舟も古径も無事出品することとなった、という逸話が紹介された。
 *1922年大正11年、古径、前田青邨らがヨーロッパ留学。
  その時古径は線描に目覚めたとか。
 *1923年大正12年 再興第10回院展初日に関東大震災が起こる。(9/1)
 *1930年昭和5年「ローマ日本美術展覧会」開催の為、大観夫妻と共に御舟も渡欧。
  その後御舟だけ単身で10ヶ月各国歴訪する。
  その際にエル・グレコが見たいといっていたそうだ。
 *そして、2013年、平成25年に再興日本美術院第98回展覧会が開催予定される。

 ざっと、山種コレクションの成り立ち、院展の歴史を辿りつつ、
 それぞれの画家のエピソードが加えられ、その歴史の中に山種美術館が濃厚に
 加わってきたことが良く伝わってきました。
 
 *今回の展覧の絵画について。
  御舟の作品120点の所蔵の中から、選りすぐりの30点を展示し、
  代表作「炎舞」は一年半ぶりの展示となった。
  「炎舞」は山種の人気作品で、見飽きることのない作品。
  炎はまるで青不動の炎のよう、背景の深い紫はもう二度と描けない色合い。
  ある人がとらやの羊羹、梅の香のようだと言ったことがあるとか。
  (我が家に丁度その羊羹があり、深淵なる紫を味わうことが出来ます) 
 *御舟絶筆、「盆栽梅」の公開。
  未完の作品だが、構想したスケッチもあわせての展示。
  晩年には家族を離れて修行したいと言っていた。
  小笠原という案があったが、結局は西伊豆に行くことになっていたが、
  チフスで急逝してしまい、叶わぬ事となった。40才だった。
 *日本画家は西洋画の人物デッサンをしたことがないので、
  古径、御舟たちは初めてモデルを使ってヌードデッサンにチャレンジした。
  また、奥さんをモデルにすることもあった。
 *大親友だった古径とは2〜3時間も絵のことで話し合うことがあった。
 *御舟のことば
  梯子を登り得る勇気を持つ者よりも、更に降り得る勇気を持つ者は、
  真に強い力の把持者である。
  日本画家として名声を得ても、その地に安住することなく、
  チャレンジしていく勇気を持っていた。
 *館長が御舟を研究するきっかけとなったのは
  幼心にも怖い絵だと感じていた「紅梅・白梅」の二幅の絵だったそうだ。
  御舟の絵から漂う、写生だけではない、何かを感じたのだと思う。
 *他、展示されている画像を紹介しつつ、その絵にまつわるお話など
  実体験も織り交ぜてのお話など、山種との生きた歴史を引き継いだ
  館長の心意気さえも感じ入ることが出来た。

 講演会は大盛況でしたが、下界は今年一番の酷暑のようで、
 そんなことを一瞬忘れ、瑞々しい絵画の世界に身を投じて
 また、日本絵画独特の自然との共存でほっとするひとときでした。
 講演会前にショップで求めた展覧会オリジナル和菓子は
 食べてはいけないレベルのかわいらしさ、美しさでした。



 朗報!山種美術館50周年記念展には大々的に御舟を特集されるそうです。

 山崎種二、二代目富治、そして当代に引き継がれてきた
 山種コレクションの歴史を辿ると言うことは
 ひいては日本絵画の近代史を学ぶこととなっていること。
 その歴史の帯の上にすっくりと和服姿で未来を見据えて精力的に
 活動されている当代館長、妙子さんが今を生きているということ。
 そう思うと、一大事件の現場に立っているような
 ちょっと熱い気持ちがわき上がってくるような、
 それもそのはず、今夏一番の熱帯酷暑の講演会でした。

この展覧会は10月14日までのロングランです。
秋の兆しが見える頃、再訪したいと思いました。

 山種美術館のサイトはこちら

 追記:山種美術館の山崎の「サキ」がPCで上手く変換できませんでした。
    山の横は立に可を使う漢字を使用されていますが、
    便宜上、一般的な山崎の「崎」を使用しましたので、ご了承下さい。

生誕100年 松田正平展 ・神奈川県立近代美術館

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 今回鎌倉に行ったのはこの松田正平展と野中ユリ展を梯子する、それが願望で
 旧友達が参加してくれたので
 酷暑もなんのその、鎌倉小町通りをおばさんズであちこちひやかしながら
 目的地までなかなかたどり着けない、そんな呑気な道中も楽しく
 ふらふら歩いてきました。

 鎌倉八幡宮へはお参りもせずに
 大谷石に囲まれ、蓮池を目の前にした
 近代美術館に入りました。

 「生誕100年 松田正平展 
  陽だまりの色とかたち」

 チラシに使われている「四国の犬」の
 ざっくりした単純且つ素朴で愛嬌のある表情に誰もが頬を緩めるでしょう。
 ご本人もとても飄々としたお顔立ちです。
 
 生誕百年を記念した松田正平展を開催するのは関東圏では初めての回顧展となった
 そうです。
 1913年〜2004年 91才まで生きた画家です。
 
 東京美術学校で学び、1937年に渡欧しコローを模写するなど
 西洋画を学びました。
 後に独特な線と単純な対象物の表現にオリジナルな世界を見いだします。
 
 日本画家も、西洋画家も一旦西洋に憧れ、学び、そして自らの絵と向かい合ってきた
 結果、その呪縛から解放されるために筆を執り続けます。
 そういった時代を経て今の現代があるのだと知らされるのですが、
 松田正平に流れる、飄々とした湿度のない
 愉快な感覚はとても心地よく、
 実に絵に縛られることなく、その絵によって見る側も解放された
 風に吹かれる気がしたのでした。
 なんのことはない、その絵に肩の力を抜いていいのだと
 教わります。

 四国の犬を代表者として、
 ただわんわんと吠えるそんな緩い存在に
 へへ、と笑える絵、なかなかないと思います。

 これはグッズキャラクターとしても一役買ってもらって、
 Tシャツなどあったらつい手を出してしまいそうです。

   
  
 松田正平展のサイトはこちら

 机の上に何点かの葉書でもいいから
 行き詰まったときにそれを見て、力を抜く練習をしてもいいかもしれません。

 夏の鎌倉、まだまだ暑い日が続きますが、
 そよぐ風は都会の泥臭い風にはない、軽やかさがありました。

 神奈川県立近代美術館の中庭などの画像撮ってきましたので
 ご紹介します。


















野中ユリ 美しい本とともに ・神奈川県立近代美術館別館

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 野中ユリ、その人の作品には澁澤龍彦のまわりをうろちょろしていると
 ひっかかってきます。
 去年、千葉の川村美術館で開催されていた
 「FLOWER SCAPES」展でも
 思わぬ独立コーナー出現に感嘆しました。
 その図録も丹念に美しく仕上がっていてお気に入りの図録となりました。

 あぁ、野中ユリ展が神奈川の近美で開かれるのかと、
 ワクワクしていましたが、
 なにしろ、鎌倉ですから道連れをお願いしないとちょっと遠方で一人では
 心許ないと思っていたので、
 旧友のお盆休みを狙っていざ鎌倉となったわけです。

 松田正平展で癒やされながらも
 まだまだ太陽光線の容赦ないじりじりにふーふーいいながら
 緩いカーブの坂道を上がっていくと
 神奈川県近美、に行き当たります。

 解放感ある近代建築。
 
 夏空に大高正人の建築が切り立った岸壁のような岩の塊が両翼を広げています。
 対を成すかのように本館の建築とどことなく類似をみます。

 初入館が野中ユリ、というワクワクも嬉しいものです。

 一階で受付し、荷物をコインロッカーに収めて
 クールな線に囲まれた階段を上がります。

 会場は左右に展示場が広がり、左から大体年代順に並んでいるとのこと。
 川村美術館で見たものがあっても、
 場所が変わると初見のような新鮮さがあるものです。

 野中ユリ展は2002年に鎌倉館で「透きとおったゆめ、野中ユリ」という展覧を
 開催したそうですが、残念ながら見ていないので、
 私のとっての初個展を見る気持ちなのでした。

 野中ユリ、その人の作品からは
 挿絵作家という範疇ではない、もっと広く高く深く謎めいた宇宙に生息するものと
 甘美な言葉で語り合ってきたその残像を切り取って、
 その欠片を精神世界の地図に美麗に標本する、
 コラージュのミステリアスが最大の魅力です。

 初期の銅版画から、デカルコマニー作品も見ることが出来ます。
 「妖精たちの森」シリーズに作家のことばが一段と光ります。

   翔ぶものと地に這っているもの
   すぐ近くにいるものと最も遠いもの
   のびあがるものとみつめているもの
   成長するものと消えていくもの
   ただよっているものと動かないもの
   光をつくるものと捨てられる側にあるもの
   そして、同時にそれらのすべててもあるものに
   この本を贈りたい。
   たぶん<妖精>というのは、そのようなもの
   にあたえられた名前の一つであろうから。 Y.N
      
   (野中ユリ「野中ユリ画集 妖精たちの森」あとがき、1980年)

 彼女の近くに美術評論家の瀧口修造がいます。
 シュールの香りは当然で、澁澤龍彦、寺山修司、種村李弘、巌谷國士、
 そんな人びとが繋がります。
 
 作品の中には
 ランボー、ボードレール、に捧げている作品もあります。

 「蓮華集」の白蓮はちょうど蓮の季節と重なり、
 一段と切なく神々しく光ります。

 野中ユリの世界観はどこの誰にもない、美しいものだけを集め
 その世界に住むものだけに味わうことが許されたイメージの世界。
 その陶酔は一度見てしまったら最後、
 自分の生息する現実の惨めさを突きつけられつつも
 憧れというのはただただ見果てぬ美の宇宙への扉であることを
 教えてくれます。
 それが手のひらに乗る小さな本だったとしても。

 野中ユリ展のさいとはこちら。
 9月1日までの開催。
 神奈川県立美術館といえば、野中ユリ、そんな印象を強く持ちました。





 また、本展覧の図録がコンパクトにまとまって1000円というお値打ち価格が嬉しかったです。
 特筆すべきは松田正平展と併せて900円で鑑賞できるので、
 晩夏の鎌倉へぜひぜひ。

清方が過ごした明治の風情 ・鏑木清方記念美術館

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 鎌倉に着いて吸い込まれるように小町通りをふらつくことにしました。
 小町通りに来たのは何年ぶりでしょうか?
 思い出せないほど遠い昔になってしましましたが、
 この賑わいには驚きました。
 まるで小京都、三年坂辺りの楽しい小さなお店が建ち並び、
 真っ直ぐ進めないではありませんか。

 一々のお店に立ち寄っていては目的地にいつ着ける事やら。
 それでも気になるお店が腕を引っ張ります。
 美味しそうな和菓子屋さん、骨董屋さん、
 小物屋さん、ブティック・・・・

 そこの路地にちょいと誘われて入り込んでみたり、
 帰りのお茶タイムはここにしようとか、
 先ずはランチよね、
 そんなことをいいながら遅延に遅延を重ねて、
 ようやくたどり着いた
 「鏑木清方記念美術館」

 明治の素敵なお茶人の旧居にお邪魔するような佇まい。
 趣味の良さが立ちこめます。

 開催中の展覧は「清方が過ごした明治の風情」
 
 初入館でしたが、入館料200円を払い、お宅訪問のような気持ちになります。
 手入れの行き届いた庭とそのお宅には
 清方の愛した画室が再現されていました。
 その建築には懇意にしていた建築家吉田五十八によるもので、
 昭和29年当時のものをそのまま使用しているそうです。
 「鏡花」の文字が染められた手ぬぐいが見えます。
 色々なものをしまう木箱が一つ一つぬくもりがあって丁寧な作りです。
 網代に組んだ棚もいい仕事ぶりです。
 障子からもれる陽も柔らかで、あの美人さんたちはここで生まれたのかと
 清方の画業が偲ばれます。

 広々としたホールの先には図書コーナーがあって、
 庭園も望めます。
 丁度桃色の百日紅が満開でした。
 挿絵を仕事としてきた本が沢山書架に管理されているようで、
 ゆとりがあれば、ぱらぱら拝見したいものでした。

 展示室はこじんまりとしているものの、
 清方のアトリエで鑑賞するようでほっとするし、
 美術館ではない温かさが感じられます。

 大作 「嫁ぐ人」「孤児院」「金色夜叉の絵看板」
 3作が並ぶと圧倒されます。
 嫁ぐ前のはにかむ若い女性の仕草、彼女を囲む女性たちの
 様々な年齢、立場が衣装や立ち姿から結婚への思いが伝わります。
 高貴な女性のボランティア精神を孤児院の援助でなお一層
 可憐な女性を輝かせます。慈悲を受ける側にとっても
 眩しく見えたことでしょう。
 金色夜叉のお宮のがっくりうなだれて許しを請う姿に
 横顔も美しい貫一はきりりとはね除けています。
 男女の修羅場とはいえ清方の手になれば、はんなりした華やかさがこぼれます。
 熱海の海岸に記念碑がありますが、
 この話がどれだけ日本中で盛り上がったのでしょうか。

 他、葉書になったもの、さらりとした水墨画、
 挿絵としたもの、などなど、
 抽斗を引き出して見る小品群も楽しい鑑賞でした。

 それにしても美人たちの横顔にはらりと落ちる髪の毛が
 どんなに謎めくか、
 今はあんな姿をする人はもはや絶滅したのではないでしょうか。
 女性のたどった歴史も生々しく、
 いつの世も女性は美しかったと
 清方の眼は言っているのかもしれません。
 そして、彼女たちの周りでかわされてきた、
 美しい日本語は、もはや古語となって使われなくなってれてしまうでしょう。
 そんなことおっしゃっちゃ、こまりますわ。

 文房具も恋愛小説も、手紙も、衣装や生活用品等々、
 今更ながらすさまじい変化を遂げてきたことを思います。
 明治の時を愛しんで慈しんで生活してきた人びとの表情に
 清方の絵を通してしっとりと教えてもらったような気がしました。

 この展覧は25日まで。
 次回は「大正期の美人画」
 チラシの色香匂い立つ美人図にくらっとします。

 鏑木清方記念美術館のサイトはこちら
 閑静な住居に鎌倉文士や芸術家たちの静かで思索に満ちた
 豊かな時間を夢想する、そんな事も出来そうな、
 しっとりした個人ならではの美術館でした。

 鎌倉の町中の画像をご紹介します。
























鳳が翔く 榮久庵憲司とGKの世界 ・世田谷美術館

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 実に久しぶりの世田谷美術館訪問でしたが、
 ユニークな展覧カップリングに喜びました。
 一つは榮久庵憲司、デザイナーの先駆け、戦後の生活水準を引っ張ってきた
 現場監督のような存在というイメージの方。
 様々なデザインを手がけてきて、実はこんなものも取り組んできたのかと
 驚かされます。

 会場入ったすぐに
 手がけてきたデザインの品々が同じサイズの四角柱のショーケースに入り
 整列していますが、
 そのバックが世田谷美術館の公園の緑がスクリーンのような借景となって
 作品をぐっと引き立てていました。
 広々とした公園の一部に会場があるような錯覚をしてしまいます。
 電車の車両、カップサイズに入れられるようになった珈琲のパッケージ、
 蒔絵がデザインされたケース、
 足を支える介護用品、などなど多岐にわたっていて
 仕事の幅の広さを教えられます。

 進んでいくと今度は近未来的なテクノロジーのデザイン。
 紙で出来た簡易住居空間、4輪の倒れないバイクのようなもの、
 足が不自由でも乗れるボブスレーのような一人乗り車、
 災害時や、介護などの分野でもテクノロジーだけではない
 デザインの美しさを表現していきます。

 場面は変わり、黄泉の国へ。
 道具自在千住観音さまが道具村の世界を表します。
 榮久庵さんのご実家はお寺だったそうで、
 僧門に入った経験もあると聞いて納得の世界観です。
 また、ご自身もいずれ招かれるであろう世界が
 近くに感じられてきたのかも知れません。
 鐘を鳴らす腕のムーブメントがとても美しく、
 ゴーンと鳴るまでのひとときを見とれてみてしまいました。
 また、旅立ちの寝台車はシルクロードへの旅のような
 音に導かれるのですが、そのスピーカーも彼のデザイン。
 また、人工的な蓮池には蝶や鳥が舞い、光が移り変わります。
 所々の蓮の花もゆらりゆらりします。
 天空には鳳が飛翔するのでした。
 ご本人のインタビュー映像もあって
 もの、道具への熱い思いをよどみなく淡々と
 語り続ける姿に驚かされます。

 ちょっと振り幅の広い世界観ではあるのですが、
 道具のデザインに捧げてきた仕事の行き先は
 現実のものではなく、遙かなる鳳が舞う世界への入り口なのかも知れません。
 
 詳細な展覧会のサイトはこちら

 会期は9月1日まで。

 昭和のデザインを生きた人が60年を経てたどり着く
 思想的道具自在千手観音像に榮久庵憲司の生きてきた道のりを
 見る思いがしました。



外に展示されていたのは
道具茶室 でした。この灼熱では
地獄なお茶会でしょうけれど、
中に入ってみたくなりました。

柚木沙耶郎 いのちの旗じるし ・世田谷美術館2階展示室

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 一階での榮久庵憲司の世界観から全く別世界の染めの世界へ。

 世田谷美術館の二階にあがると、
 あたたかな、自然から生まれた
 大きな旗が天井高く掲げられています。
 
 染織家、柚木沙弥郎の作品群です。

 そのプロフィールでなんと91才の現役染織家であると知らされます。
 民芸活動の柳宗悦の影響を受け、
 染織家、芹沢銈介に師事しますが、
 その独特なおおらかさは独特です。
 民芸運動の側に彼がいたという、その納得の経歴と
 今もなお、仕事に意欲を燃やして活動していることに
 勇気をもらいます。

 単純すぎる線と、色数の少ない染めのバランスの妙。
 デッサンからの引き算の限界です。
 力強い線は決して定規を当てない、ハンドメイドならではの
 揺らぎがあって信頼できる力が生まれてきます。
 色は単純でも自然界から生まれた、それだけで
 温かで、優しくて、太くて、丈夫で、安心で、
 そしてなんだか嬉しい気配に包まれます。
 
 作品は染め物ばかりではなく、
 絵本、「雉女房」の原画があったり、
 指人形、「町の人々」が賑やかに並んでいたりします。

 柚木沙弥郎さんのサイトがありました。
 こちら
 
 柚木さんの作品がてぬぐいなどになっていたら
 大人買いに走りそうな、とても魅力あるまるい仲間たち、そんな
 嬉しい作品たちでした。
 まだまだ命ある限り、がんばるぞ、という旗じるし、
 元気を頂きました。
 
 隣の展示室には
 日本のゴーギャンといわれた、土方久功の彫刻と水彩が紹介されていました。
 初めて知る作家ですが、パラオなどに13年も暮らしてきたそうです。
 自然界と親しんだ、ゴーギャンを彷彿させる作品群でした。
 水彩画とおなじ画題で彫刻を試みる、そういう組み合わせが新鮮でした。
 世田谷に縁のある作家を紹介する試みは
 その土地に根ざす芸術家を応援する美術館の側面を見るようでした。

 この展示は今日が最終日となりました。

 榮久庵憲司、柚木沙弥郎、土方久功、
 様々な男の有り様を見ることが出来た、そんな一日でもありました。
 
 一緒にみてまわったFさんとのおしゃべりは
 カフェで延々と続き、それもまた世田谷に行った時の
 楽しいオプションなのでした。








八月のアート鑑賞 2013 

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 今夏の八月は受験生がいるとはいえ、
 割合と彼方此方に出掛けられて楽しかった日々でした。
 しかし、酷暑厳しい日々でした。
 
 *福田美蘭展 東京都美術館
  ブログ記事に詳細を上げましたが、
  本当に楽しめたし、その視点のユニークさと画力に驚くばかりでした。
  今夏一番のお気に入り展覧会です。

 *ルーブル美術館展 東京都美術館
  福田美蘭展をカップリングした影響を受けて
  見事に流し観、地中海博物館を通り抜けたようなそんな具合でした。
  それでも銀の器がいぶし銀で素敵だったこと、
  スプーンに女性の体が捧げられるように彫刻してあったこと、
  それらは眼に残りました。

 *鳳が翔く 榮久庵憲司とGKの世界 世田谷美術館
  ブログに記事アップしました。  
  我が家のお醤油差しはGKのものでしたというよりも
  既に日常のデザインとなってまったく溶け込んでしまっているのです。
  用の美、それは今も尚ありとあらゆるところで工夫され続けています。

 *柚木沙弥朗 いのちの旗じるし 世田谷美術館
  民芸の染織家、芹沢銈介を師に持つ柚木さんの作品には
  伸びやかな自然へのいのちへの温かさが溢れていました。
  かわいい単純な色遣いは子ども達にもきっと大人気でしょう。
  子どもの頃、指人形つくった気がします。
  今の子たちは知らない世界かしら、と残念でもあったり。

 *清方が過ごした明治の風情 鎌倉鏑木清方記念美術館
  鎌倉を旧友たちとふらふら歩いた道のりに
  静閑な日本家屋の美術館がオアシスとなりました。
  明治、大正、昭和の日本が日本らしかったその日常を思い出す
  懐かしい場所となりました。
  私の育った時代の家の庭、景色を回顧することも出来ます。
  女性たちはみんなしとやかで美しかったのですね。

 *生誕100年 松田正平展 神奈川県立近代美術館
  こちらもブログにアップしましたが、
  西洋画を学んだ後にあんな素朴な単純な絵に向かったことが
  松田正平なんだな、と思いました。
  熊谷守一をふと思い出したことや、
  あの美術館の建築とも融合して良かったこと、
  蓮池を走る風も心地良かったのでした。

 *野中ユリ 美しい本とともに 神奈川県立近代美術館別館
  鎌倉行きを友人に強くおねだりしたのは、野中ユリ展があるということでした。
  良く歩き回りましたが、
  あの空間を体感できたこと、本当に良かったです。
  カンパネルラも喜んでいることでしょう。
  星々と鉱石と夢が織り成すキラキラワールド。
  物語は美しくも儚い妄想の標本箱。

 *速水御舟ー日本美術院の精鋭たち 山種美術館
  なにしろ底抜けに暑い日でしたが、
  山種館長の和装に気合いを頂きましたし、
  御舟のお孫さんたちが訪日されていたこともあって、
  熱気溢れる講演会を拝聴することが出来ました。
  本展についてはまだ記事にしていませんけれど、
  もう少し涼しくなってから、御舟のお菓子と共に
  もう一度、ぜひ再訪したいと思っています。

 *おもちゃ美術館
  従妹親子に誘われて、四谷三丁目にある、廃校舎をリノベーションした
  子ども達にとっての楽しい楽しい遊び場。
  大人も親になった事を忘れて一緒に遊べます。
  丁度日本国内の土地土地に残る人形展が開催中でした。
  0歳児の赤ちゃんから小学生まで安心して遊べます。
  おもちゃ、子どもだけのものじゃないと
  よく考えられた安心安全やさしい木のおもちゃに感動しました。





 *文字の力・書のチカラ 出光美術館
  余りの暑さと、喉風邪が長引いていてうっかり見逃すところでしたが、
  会期末ギリギリに駆け込んできました。
  見逃していたら後悔するところでした。
  東博の和様の書、それに関連して日本の書、というジャンルの
  不明なところはさておき、
  ビジュアルとして単純に美麗なものでした。
  宗達・光悦の書だけではなく、乾山の陶器、
  屏風絵も展示されていて、なさがら「書の琳派」を見るようでした。
  前回の書の展覧図録が値下げされ、今回の図録も丁寧な作りだったので
  頑張って二冊ぶら下げて帰りました。
 
 *浮世絵展 三菱美術館
  この浮世絵展の展示空間は実に三菱美術館にぴったりで、
  西欧の浮世絵コレクターはきっとこんな風に
  リビングにロートレックと一緒に飾って楽しんでいたのではないかと
  嬉しくなりました。
  中でも、肉筆軸装の独立したショーケースが立ち並んだ展示室が
  とても素晴らしかったのでした。
  いつも会場の真ん中でどこにいるのか不安になってしまうのですが、
  今回で少し慣れてきた気がしました。
  次回はまだ行ったことがない美術館カフェにも寄ってみようと思います。

  
  

 *アンドレ・グルスキー展 国立新美術館
  一言でこのスケールにやられた、という印象です。
  この展示企画にもグルスキー氏自ら指示があったそうで、
  破格な写真という世界を実は一番楽しんでいるのは
  ご本人で、鑑賞者は彼の企画に振り回されつつも
  ぐるぐるにされてまた違った意味で遊ばれていることに喜びを感じてしまいます。
  どうしたらあんな画面が出来るのだろう?という
  引っかかりが彼を知るための扉となるのでしょう。
  会場を出たら自分の目がグルスキー視点になってしまって、
  カメラワークを楽しんでしまうこと、間違いありません。
  もうちょっと、グルスキーのこと知りたくなりました。




 *アメリカン・ポップ・アート展 国立新美術館
  眼がグルスキー化してまもなく、アメリカン・ポップ・アート展になだれこみました。
  その余韻が案外面白く鑑賞できました。
  思いの外、コレクション数があって、
  コレクターの底力に降参してしまうのですが、
  なんてたって、ウォーホルの個展が特別コーナーにあるくらいの
  スケールの大きさに仰天してしまいました。
  ロバート・ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、
  ジム・ダイン、オルデンバーグ、ウォーホル、リキテンシュタイン、
  等々、アメリカンポップの巨匠たちがパワーズ夫妻による至極のコレクションとうのも、
  凄いご夫婦が世の中にはいらっしゃるものです。
  見応えたっぷりなので、10月21日会期末までにもう一度楽しみたいと思います。

 *文晁展 サントリー美術館
  後期の文晁展に行ってきました。
  前期作品と随分展示替えがあったので、再訪してよかったと思いました。
  文晁の仕事の的確さと何でも描けることが彼の芸の色をなくしたとするならば
  それが彼の特徴ともいえるのではないでしょうか。
  そうして彼を取り巻く松平定信公と文人たちとの交流、
  後継絵師たちも慕って、渡辺崋山もその一派に顔を連ねているあたり、
  人望の大きさを感じます。
  西洋画への挑戦も既に始まっていて、
  日本画とか、西洋画とかの境界線も曖昧で
  破綻なくスケッチしている画帳などはとても自由な筆が走っていました。
  とても愉快に楽しく仕事をしていたんだろうな、
  と家族や、抱一、周りの人々の親しい交流に人徳を観て温かな気持ちになりました。

 *福井利佐 LIFE-SIZED ポーラミュージアムアネックス
  切り絵の作家さん、福井利佐さん作品を
  ミッドタウンのとらや店で拝見していました。
  2011年3月から6月の企画展でした。
  そのパンフレットを大事に持っていました。
  その作家さんの個展があるとTwitterで知りました。
  そうして、ようやく出掛けていったのでした。
  その日は草月の稽古日で帝国ホテルでの草月の花を見た後、
  先生もお引き連れしてポーラアネックスギャラリーに行ってきました。
  大きな面相が切り刻まれた圧倒的な曲線表現が
  表面は白一色、もう片面はカラーで向きを変えると
  がらり、色の世界が広がる仕組みでした。
  パネルに貼られた様々な人の顔は表情筋の後をスローモーションで
  なぞった足跡のように、ぐるぐるしますが、
  その巧みなことといったら執念も感じられます。
  9月8日までの会期です。今後のご活躍をますます期待したい方です!
  今回の会場入り口のポスター


  2011年の宝生能楽堂でのパンフレット


  2011年ミッドタウンとらやのパンフレット


 今年の夏はことのほか厳しい酷暑で体調を崩す方も見受けられ、
 太陽光線の垂れ流しをなんとか一日も早くエネルギーに変換して欲しいと懇願します。
 ゲリラ豪雨に振り回され、花火大会も散々だったりしました。
 去年よりも今年、亜熱帯に近づいている気がします。
 日本が自然への畏怖と、もののあはれを大切にし、消えゆくものへの思いを
 大切にする民族であり続けられるようにと願います。

 そして、日曜日から、9月突入です。
 気分を変えて、芸術の秋をしっかり楽しもうと思います。
 

東京国立博物館 本館 (9月6日訪問)

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 相変わらず、暑い日々と思いきやホッとするほど涼しい風が吹いてきたり、
 秋は近いのだと思いつつ、
 今日は上陸した最大級の台風の脅威に怯えます。
 日本列島がこの天災に振り回されながらも最小の被害で済みますように。

 台風ニュースを片目にあわててブログ記事にします。

 6日、東博に行ってきました。
 「和様の書」の後期を見なければと勇んで行ってきたのでした。
 典雅な琳派を育んだ上流社会の文化密度が濃密すぎて
 ガツガツした日々を猛省します。
 お香を焚いてしずしずと時の揺らぎを感じたくなりました。
 自然の移ろいと人々の心模様を写し、中国からの書を
 和様と変化させていった昔の日本人の美しき心意気。
 柔和に和をもって尊しです。

 その日は金曜日だったので、閉館8時までいられるという
 めぐまれた鑑賞時間を手に入れることができたのでした。
 たまたま我が家の男子共が晩ご飯がいらない日でしたので
 思い切っておやつ時から東博入りしたものの、
 結局は6時半には退館して帰途につき
 夕方から外にいることが不慣れになっていることに
 がっくりもしました。
 それでも、美しいものとの遭遇は脳内血流を活性化させてくれます。

 特別展の記事はあまりにも壮大で優雅の極みだったので
 本展のサイトで復習します。

 それで、本館の素晴らしいところ、ピックアップして
 記事にしようと思います。

 9月6日のことですので、あしからずです。

 *国宝室では和様の書と並んだ国宝の書の逸品
  和歌体十種 和歌体十種断簡
  紫に滲んだ雲が飛んだ料紙が温かな微笑ましい気持ちにさせてくれます。
  掛け軸になった断簡は様々な席で披露されてきたことで
  色が濃く変色したのだろうという解説がありました。
 
 *仏教の美術
  断簡がたくさん展示されていてその軸装の美しさもあって
  華やかな気配がありました。
  伝道真やら、伝嵯峨天皇やら、畏れ多い方々の登場でした。
 
  また、太秦切という法華経断簡には愛らしい聖徳太子が富士山に向かって
  飛んでいく姿が見返しに描かれています。
  解説によると見返しの絵だけは後補だそうで、聖徳太子絵伝の伝説を
  描いている、とのことでした。


  そこに珍しい彩色のある華鬘が展示されていました。
  木製彩色婦人乗馬図華鬘 


  木製彩色胡蝶舞図華鬘

  
 *宮廷の美術
  仏教の美術で断簡の紹介が数点ありましたが、
  ここは歌仙たちの断簡です。
  壬生忠峯、源順、藤原元真、などのやんごとないご面相が並びます。

 *禅と水墨画
  雪舟(伝)の大画面、四季花鳥図屏風
  その中で墨書がいぶし銀に光ります。
  夢窓疎石筆の二行書、この人の文字は墨跡展で幾度となく
  お目に掛かります。
  ゆるっとした力の抜け具合が美しい文字です。
  他にも和様の書展に相応しい美しい歌の書が展示されていました。

 *茶の美術
  秋の茶会のようなしつらいに。
  志野茶碗 銘 振袖 
  白い肌に薄がうっすらと。
  濃い緑のお茶が入ったらどんなに映えるだろうと思います。
  丁度三井記念美術館で桃山の名茶碗が勢揃いするとか。
  楽しみです。



  熊川茶碗 銘 田子月
  茶碗の口が外側に反っていてぽっこりとした形が特長なのですが
  それがお茶席に穏やかな気配をつくってくれそうです。



  仁清作の土肌の黒い陶器による建水。まるで金属で出来たような質感。
  仁清のろくろの凄さを破綻のないキリッとした形状に感嘆します。



 *屏風と襖絵
  屏風という大画面の夢の世界です。
  美術工芸品が室内を甘美な物語世界に導きます。
  堂々と扇面散屏風が現れてため息です。
  そこには60枚の扇面が貼り交ぜてあり、
  宗達の絵所、俵屋の製品も含まれているとか。
  屏風仕立ての金具の金工もウットリするほどの
  花文様の透かし彫りが見えます。





  扇、屏風、絵が室内を飾り集う人々の心が踊る思いが伝わります。
  酒井鶯浦の軽やかな屏風も艶やか。



 *書画の展開
  ここにも扇面散図屏風が登場です。
  伝、俵屋宗達筆、二曲一隻。
  重厚感ある配色と散らされた扇にリズム感があります。
  単純な富士山や、波頭、朝顔などが見えます。



  今回の目玉は抱一の四季花鳥図巻下巻。
  抱一の色使いはその人の趣味全開で、名家出身らしく
  品の良さ、目線の確かさ、優しさがにじみ出ていて
  光琳に捧げた画業もさることながら、
  日本の叙情をおしげもなく表現した殿なのではないかと
  つくづく思って眺めたのでした。







  サントリー美術館でみた文晁の息子、文二の仕事と出合いましたし、
  文晁が仕えた松平定信のマジメな一行書にも遭遇しました。


 *浮世絵ー人びとの絵姿
  前回は国芳オンパレードでしたが、
  今回は春信がぎっちり、34件!
  恋の矢文は
  若いお兄さんが茄子を持っていて、那須与一をイメージさせます。
  綺麗なお姉さんを射止めるのだと、恋路の始まりをみせてくれるわけです。


  素直な色気となだらかな姿やらでとろんとした気持ちにさせられます。
  その春信の作品が一同に会して圧巻の展示となっていました。
  16日までの展示だそうです。
  これだけを観ることができて実に豊かな気分となりました。
  「見立菊慈童」は重要美術品。
  何年か前の松濤美術館でみた春信作品が本当に綺麗な刷りだったことを思い出します。





 
 今後は鳥居清長、広重を特集していくそうです。
 どんな作品と出会えるのか、ワクワクします。


 他、一階の展示から画像を紹介します。

 漆工は本当に日本を代表する工芸だとつくづく思います。
 海外でジャパンといわれ、憧れ、コレクションされてきたことも
 うなずけます。
 これは木、漆、植物で出来ているのですから、本当に驚きの芸術品です。
 やきものと並んで興味がつきない工芸品です。

 
 この単純な千鳥の動きをよく見るととても愛らしい姿、表情があることに
 驚きました。鳥たちが漆器を彩ってきた原形を観るようです。


 
 伝、光悦の硯箱ですが、今回の展示で蓋裏の表現を観るチャンスに恵まれました。
 蓋裏にも手抜きが一切ありません。流石としかいいようがありませんでした。

 また、「運慶と快慶周辺とその後の彫刻」
 特集陳列も見応え充分です。11月17日までの展示なので
 改めてじっくり見に来たいと思います。
 あの、真如苑所有の大日如来様もお出ましです。
 
 東博らしい特集があります。
 博物図譜の特集です。
 ここには珍しい奇獣図譜のありえない動物たちがまことしやかに描かれています。
 また、植物の可憐な図譜もありました。




 こうして、特別展を平成館で開催中の本館のこれまた
 ものすごい充実振りにほとほと呆れつつその奥深さに畏れをなした
 金曜鑑賞でした。

 これから、10月1日からは東洋館で「上海博物館、中国絵画の至宝展」
 10月8日からは「京都」展が開催されます。
 芸術の秋、庭園解放もあり、すぎゆく季節の移ろいを感じつつ、
 名宝の素晴らしさをこの目で確かめたいと期待しているところです。
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