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東京国立博物館 本館(9月3日)

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 この日、上野に出かけましたので、
 やはり東博のことを先に画像と共にご紹介します。

 この充実観はいつも私をしあわせにしてくれます。

 気になったところだけのピックアップです。

 東博のニュースをいつも楽しみにしていますが、
 本館1階の案内見取り図と見所もぜひ、
 解説案内ページができたら嬉しいなぁと常々思っています。
 アプリの案内もダウンロードしてみましたが、
 やはり、紙のもの、欲しいと願ってしまいます。
 (音声などの説明を聞く手間がちょっと面倒くさく感じてしまう私です)

 今回は1階から回りました。

 仏像コーナーは十一面観音さまが5体も展示されていて、
 ありがたくもうっとりしました。


 *阿弥陀如来立像 13世紀 ~10/25
 こちらは大変美しいお姿で、螺髪に埋め込まれた
 水晶?が目立つ珍しいものだと思いました。
 トーハクのサイトでは京都の泉涌寺伝来のもので、
 館には釈迦如来様としてお入りになったとか。
 サイトの画像は美しい光背を伴っていますが、
 会場では光背を外しているお姿でした。

 漆工展示には、源氏物語蒔絵源氏箪笥 

 
 
 古墨意匠硯箱 伝小川破笠作 

 
 

 金工・密教法具
 金銅五大明王五鈷鈴

 
 
 灌頂用具
 

 陶磁器
 長次郎の黒楽茶碗 銘 尼寺

 
 
 

 近代の美術

 

 堂々と河鍋暁斎の龍図観音像が現れました。
 巨大ケースの下にまだ溜まるぐらいの圧巻巨大作品でした。
 本当に今年は暁斎の当たり年です。

 超絶金工の仲間でしょう。
 稲穂に蝗置物 狩野晴雲作 昭和20世紀のもの。

 

 

 隣には白磁観音立像 作者は初代宮川香山。
 小さな作品なのに、この緻密度はため息です。

 2階に上がります。
 縄文のスーパースターが登場です。





 これは宮城県田尻町恵比寿田のもので、青森亀ヶ岡の遮光土偶と
 肩を並べるもの、(東博ニュースより)だそうですが、
 今回しみじみそのデティールを眺めました。
 背面もなかなか見事な盛りを魅せていました。
 
 国宝室には頼朝のすばらしい文字。源頼朝書状。こちらは9/6に展示終了しています。

 仏教の美術 平安・室町
 いきなり愛染明王がにらみを付けてきました。~10/25



 また、きらびやかな経文に目を奪われます。
 紺紙金地一字宝塔法華経五百弟子品断簡(太秦切)





 平安12世紀のものだそうですが、田中親美さんからの寄贈と紹介されていました。
 模写の研究にこれを手元に持っていたのでしょうか。
 まばゆいきらめきを放っていました。

 宮廷の美術
 久しぶりに馬医草子が展示されました。
 馬の医者の秘伝書として鎌倉文永4年(1267)に記されたそうです。

 

 

 当時は現代の高級車以上に、大切に丁寧に管理されていたのでしょう。
 薬草の写生画も興味深いものでした。



 茶の美術
 今、サントリー美術館で藤田美術館からの至宝展が開催中ですが
 その目玉として展示された 曜変天目茶碗と同じ中国の南宋時代に
 作られた、禾目天目茶碗が並びました。



 曜変ものよりは少し地味ではあっても、
 漆黒の母体に青い光が鈍く光る様子はこちらもなかなかの名品と思います。
 むしろ、茶碗のなりは天目茶碗らしい、口縁を持っているように感じました。
 
 南宋の青磁茶碗も薄作りの端正な形にため息です。常盤山文庫蔵のもの。

 

 

 笹蟹蓋置の愛らしい姿など、
 茶会ではきっと涼しい風を感じさせてくれたことでしょう。

 屏風と襖絵
 今回は曽我直庵、曽我二直庵のもの。
 この空間を堂々と力みなぎる気で充満させていました。
 鶏図屏風はカメラマークがついていたので、写メできず、残念でしたが、
 上質絵具で色鮮やかでした。

 水墨画の龍と虎図のほうはちょっとユーモラスな表情で、
 戦意消失してしまいそうです。虎次郎のあんよが可愛すぎたのでした。





 そして、もう一作品は曽我二直庵の作。
 花鳥図屏風。全体を撮るのが大変でしたので、部分の画像紹介です。

 



 一瞬の切り取りがみえました。

 書画の展開
 応挙は写生を大切にした人ですが、これが現れたら、
 納得感心感嘆でした。

 

 

 

 

 蝶、昆虫たちの写生を見せられて、降参するしかなかったのでした。
 応挙がこの紙面にむかって息を吹きかけるように
 集中力を注いだのかと感動します。

 ユニークな百鬼夜行図屏風はうらめしや~の流と共に
 楽しめます。大倉集古館からの展示です。
 色が鮮やかで、素晴らしい構成でした。
 絵師は 原在中。
 どんな活動をされてきたのでしょうか。
 直ぐ隣にシナを作った美しい画面のガイコツの軸が並びました。


 これもその、原在中筆。
 楊貴妃骨相図。道具仕立てが楊貴妃の香りを醸し出しています。

 さて、同時に特集が組まれていました。
 *「春日権現験記絵模本 ー神々の姿ー ~10/12
   絵巻シリーズの中でも最高峰のもととして数えられる
   「春日権現験記絵巻」東博での展覧会でその一部分を鑑賞された方も
   いると思いますが、その模本の魅力に迫るものとして特集となりました。

 

 

 

 

 


 *「後水尾院と江戸初期のやまと絵」 ~9/23
   後水尾院は江戸初期の天皇です。
   琳派の光琳、乾山の父、雁金屋の大得意先が
   徳川家光の妹、東福門院和子中宮でした。
   公家たちのきらびやかな文化爛熟の匂い立つ時代、そんな風に感じます。
   後水尾院は文化の主導権を持ち、古今和歌集の奥義を直接伝授されることは
   最高の名誉とされていたそうです。
   その時代に重用された、住吉如慶の「伊勢物語」

 



   土佐光起の「十二ヶ月歌意絵巻」など、
   やまと絵師たちの展示されました。
   また、「立花図屏風」ではいけばなの手本図のような
   屏風が並んで、大変興味深く見ました。
 


 *「能面 女面の表情」 ~10/4
   能面なかでも女面の特集で、女面のイメージからは
   かなり様々の表情と年齢による違いなどがあるものだと
   ずらりならべられた面をみて実感できるものでした。
   ラストにはやはり般若面が。
 
   純真は狂気になり、その果ては??

 

   珍しい蛇の面もあって、そらおそろし、あなおそろしやを
   実見できます。
   六条御息所の怨霊も天井に浮かんでいるかも知れません。
   能は、そういえば、霊界のおなはしですから、
   どうか鎮まって欲しいとひたすら願ったのでした。

 今回も充実のトーハク。
 もうすぐ始まる「ブルガリ」のジュエリー展の準備が
 表慶館で進められているのを横目で見て、
 どんな煌めきが待っているのか、期待しながら
 帰途についたのでした。

 

これからの美術館事典 東京国立近代美術館

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 これからの美術館事典。

 国立美術館コレクションによる展覧会という、サブタイトルは
 つまり、この展覧会は国立美術館の所蔵品で構成される、
 そういうことのようです。

 英語で NO MUSEM, NO LIFE?

 人生に美術館がなくて大丈夫かっていわれると
 優先順位からしてどうなのかと
 突っ込みを入れつつ、
 豊かな時間を過ごすためには不可欠。
 恵まれた環境下においては身近に。
 厳しい時はどうなんだろう?
 ひとそれぞれ違う立場で様々な関係性を作っていくのでしょう。
 あちこちの美術館年パスを手に入れているような
 私には美術館が脳みそのパラダイス・オアシスであることになんの疑いもないのです。
 
 いつもと違う雰囲気のフライヤーを手にしてみると、
 「なぜ、美術館のなかはやたらと寒いのか?」

 と、また問いかけてきます。

 今回の展覧会は、表舞台に出ることのない、
 美術館と所蔵作品の関係性そのものに焦点を当てて、
 作品の背後にある美術館の構造や機能に目を向けると
 美術鑑賞の幅が広がり、楽しむ視点が増えること。
 また、見慣れた作品に新しい側面がみつけられることが
 仕掛けられているようです。
 そして、2010年に国立新美術館で開催された「陰翳礼讃」
 に続く、国立美術館5館のコレクションによる展覧会の第二弾、
 という位置づけ。
 そして、厳選された170点の作品で
 A~Z、36にわたるキーワードで構成するということ。
 美術館の有り様をこちらに投げかける、そんな仕組みのようです。

 この企画展が近美のユニークな会場の形をどう料理するのか楽しみに入場しました。
 すると、中では鑑賞者の人たちが展示品にカメラを向けて写メしています。

 
 
 なるほど、とiPhoneを取り出して会場を回ることにしました。

 
 

 この見取り図が今回の展示会場です。
 手渡されたオレンジのペーパーにも見取り図が記されていました。
 しかし、その通りに見るような誠実な鑑賞者ではないので、
 ポケットにしまい込んで目に入るものを追いかける、
 そんな見方をしてきました。
 展示品は開館したばかりの美術館のポスターなどが並び、
 日本の美術館はまだ1950年代のものなのかとちょっと驚きました。
 そうか、まだそんなに時は経っていないのだと。

 
 デュシャン ヴァリーズ(トランクの中の箱)複製写真、レプリカ、箱

 壁に顔を付けているアラブ系の人体があって、
 彼は一体何をのぞき込んでいるのやら。
 反対側の壁に行くと彼の目と視線が合う仕掛けになっていました。
 その視線を見つけるために踏み台に乗り、
 破れた壁の穴を覗くという愉快な体験をしてきました。
 私の目をちゃんと見てくれたのでしょうか。
 スン・ユエン&ポン・ユー I am here 2007 
 
 
 



 会場には所々壁が額縁となる仕組みがあって、
 トリックアートを見るような気持ちになりました。

 そして、近美のお宝。フランシス・ベーコン
 スフィンクスーミュリエル・ベルチャーの肖像 1979
 

 企画が違えば、カメラOKができるわけもないんで、
 いいんですか!と思ったのでした。

 ベーコンは本当に色の使い方が鋭いです。
  
 ミロスワフ・バウカ φ51×4,85×43×49 1998

 

 謎なタイトルです。ポーランドの作家。国立国際美術館

 そして、ヨーゼフ・ボイス カプリ・バッテリー 1985
 国立国際美術館 
 丁度京都の丸善でレモンフェアのニュースを知ったところだったので、
 タイムリーでした。あのレモンはレプリカ?ほんもの?牙彫?
 妙に瑞々しかったのでした。
  

 国立国際美術館からの作品が続きます。
 ダン・フレイヴィン 無題(親愛なるマーゴ) 1986
 

 次に壁面が女性たちの姿に埋め尽くされます。
 

 

 

 夏の風物詩となったホテルオークラで開催された
 「美の宴」はラストのオークラでしみじみ拝見しましたが、そこで気になった、岡本神草。その彼とともに評価されていた甲斐庄楠音の作品が現れました。
「毛抜」逆立つ奇病に毛抜きをしているところだろうか、
 若い男の子のようにも見えて、中性のなまめかしさを感じたのでした。
 彼の得意なデロリ臭は薄いのでした。

 そして、ぐるりと回ると、
 なんと、デュシャンシリーズです。
 

 頭の固いおじおばさんたちは当初この作品にどんなことばを掛けたでしょう。
 便器とか、グラス乾燥器とか、帽子掛けとか、
 そんなものがアートになるなんて。
 そこをよく利休の見立てにたとえられ、
 現代アーティスト、杉本博司さんを思い出すのですが、
 そこに隠れている何かを見つけたひとが一番なのです。
 してやられた、そういうことです。
 
 アメリカのポップアートはレディメイドを進化させていきました。
 ウォーホルの花はいつもカッコイイと思います。

 ルノワールの「横たわる浴女」の隣に
 梅原龍三郎の「ナルシス」が並んで、良いコンビネーションでした。
 個人的にはあのぼんやりしたルノワールのタッチが苦手で、
 印象派展に気持ちが向かないのですが、モネは別格です。

 そして、近美の長い廊下状の展示室には
 収蔵庫という章立てで、まるで美術館の所蔵保管庫を覗くような
 工夫がされていました。
 藤田嗣治の作品が倉庫にある状態を再現していました。
 
 

 

 

 

 収蔵庫に入るということは、なにか問題が発見されたならば、
 きっと様々な補修がされるのだろうと、
 ただ見ている側だけではしりえない物語が潜んでいるようです。
 でも、その現場の方しか手が出せないという特権と
 技術力にちょっと憧れます。
 
 展示会場が段々終盤を迎えていることがわかります。
 何か布で覆われています。
 巨大なものを布で覆い被せてしまう、クリストの作品かと思ったら
 マン・レイの作品というサプライズが待っていました。
 マン・レイ イジドール・デュカスの謎 国立国際美術館
 
 
 
 その向こうになんと小さなクリスト作品。
 包まれた缶 1958
 

 荒川修作 作品 1960
 どんな思いを埋葬しているのか、棺の紫が痛々しいのでした。

 

 そして、虚しい一陣の風が吹き、
 祭りの後の悲しみが梱包されることで展示が終わりました。
 
 

 ありとあらゆる方法の様々な芸術作品がおもちゃ箱を
 ひっくり返したかのように
 普段見ることができない様子を散りばめながら
 博物館的に作品が資料として陳列された、ユニークな展覧会体験でした。
 
 美術館が展示品となった、企画。面白かったです。

 その後、常設に回り、そちらもまた面白く
 いつかカメラ撮影しながらまわることやってみようと思ったのでした。

 この展覧会は 9月13日、後もう少しです。
 セレクト展示にピカソが現れてます。
 また、舟越保武の作品、「原の城」が現れてドキドキしました。
 背面には「さんたまりあ いえずす」の文字がみえて、
 信仰の美しさに参りました。

 次回は「藤田嗣治、全所蔵作品展示」という特集を組むそうです。
 藤田嗣治が日本を後にした、その絶望を思うと、なんとも切なくなるのです。 

大手門から平川門散歩(皇居) 8月27日  

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 台風の影響で長々と雨が続きます。
 ブログ記事を上げる気合いも下降線なので、
 先日行った、三の丸尚蔵館から、国立近代美術館までの散歩風景を
 ご紹介しようと思います。

 地下鉄大手町の地下道はかなりこんぐらがっていますが、
 最近、パレスホテルがリニューアルされ、地下通路が整備されました。
 地上に出る出口を覚えておけば、かなり便利になりました。

 皇居に入るには各門で入場の札をもらうだけで、入れます。
 帰りにはどちらの門でもいいので、その札をお返しすればOKです。






 大手門が工事中となっていますが、
 それでも堂々とした姿を想像できます。
 登城するぞ、という気合いが入ります。
 




 その石組みの石の大きさに圧倒されます。
 なんてすごい力があるのだろう。
 その石は遠く、伊豆方面からも運ばれてきたようで、
 両親の住む伊豆高原駅前広場に大きな石があって、
 なんと、それを江戸まで運んだそうです。どうやって?

 松と石に囲まれた伝統の重みと江戸城の権威の跡を思います。
 
 外国のお客様が大勢見学に来ていました。
 日本人の方が少ないくらい。

  

 三の丸尚蔵館で「絵巻きを愉しむ」の展示が興味深く、
 岩佐又兵衛の強烈な「小栗判官絵巻」を前期、後期の展示を
 間近に見ることができて、大変嬉しく思いました。

 天皇家が所蔵するお宝に技量が問われるのは当然だとは思いますが、
 やっぱり、素晴らしいものをお持ちです。
 将来、二階建てに増築されるそうなので、その情報も気にしたいところです。

 平川門までの散歩道で見つけたもの、画像アップします。

 三の丸尚蔵館を出て同心番所が見えます。
 

 そこから堂々とした石組みが見えます。
 石の大きさにうなります。
 

 

 秋の気配がちらほら。
 

 

 石組みに寄生する野草もけなげ。
 

 

 時間が許せば、二の丸庭園に寄ってみること、お勧めします。
 回遊庭園の優雅なこと。
 諏訪の茶屋の立派な佇まいも重厚な景色に溶け込んでいます。

 今回は近美、MOMATに急いでいましたので割愛です。

 平川門が見えてきました。
 その横に石階段があります。
 

 こちらが平川門。
 

 立派な梁もみえます。
 

 

 門扉の鉄。
 

 遠くに国立近代美術館の姿が見えます。
 

 橋の欄干にある擬宝珠。良い具合の緑青です。
 寛永元年 八月吉日 長谷川越後守 の文字が見えます。
 

 足下の橋に埋め込まれた木材が良いデザインとなっていました。
 

 そんなことをiPhoneカメラに入れながら、
 近美に向かったのでした。
 皇居ランナーはいつも頑張ってますね~
 
 カメラがあると、お散歩も一段と楽しいものです。
 
 先月、8月27日のことでした。曇天につき、すっきりしない
 画像でしたが、ご容赦下さい。

8月のアート鑑賞記録(2015)

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 2015年の夏があっという間に通り過ぎて行ってしまいました。
 あんなにフーフー暑いと言っていた日々はもう、遠い日となってしまった気がします。
 
 そして急に涼しくなり、そうかとおもえば、台風の影響で大雨が続く日々。
 関東地方の被害も大変な事に。
 災害と直面された方へのお見舞い申し上げます。
 
 カレンダーを見て、今年が残り4ヶ月切ったという事実に
 ぎょっとします。

 8月の見てきたもの、例によって簡単にメモ備忘録します。

 *春信一番写楽二番(後期) 三井記念美術館
  久しぶりに素晴らしいコンディションの浮世絵をそれも春信の渾身の作品を
  見ることができました。
  写楽はやっぱりカッコイイです。
  キリッとした構図が信条です。

 *リサとガスパール 銀座松屋
  久しぶりに松屋に出かけました。
  知人が関連ショップにいたので、
  ちょっとアルバイトなどもしました。
  期間中、ちゃっかり展覧会を覗いてきました。
  お子様だけでなく、充分大人でも楽しめる工夫があり
  日本に来たリサとガスパールの絵に思わずにっこり。
  ついついリサのグッズを求めてしまいました。
 

 *藤田美術館展 サントリー美術館
  大阪の名コレクションが六本木まで出張してくれました。
  素晴らしいのため息ばかりの優品尽くし。
  後期の展示替えが済んだので、また行ってお宝を拝見したいと思います。
  本当にレベルの高い国宝、重文がざくざくしてました。
 
 *美の宴 ホテルオークラ東京
  ブログ記事に書いたとおり、オークラの日本的風格のある平安の間で
  ひらかれた秘蔵の名品、アートコレクション展。
  美の宴。ホテル内での展覧会は独特な重厚感と落ち着きと
  晴れやかな雰囲気に囲まれて、とても上質な時間を提供してくれます。
  岡本神草という画家を知る機会となり、喜びました。
  麗しいホテルの姿と再会できますように。
 

 *絵巻を愉しむ(前期・後期) 宮内庁三の丸尚蔵館
  MOA美術館で岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」の絢爛を見てきましたので、
  こちらでも岩佐又兵衛の「小栗判官物語絵巻」が展示されることを知って、
  これは是非にと、前期、後期と見に行きました。
  他の展示作品も大変興味深く、物語絵巻の魅力に浸りました。
  「小栗判官物語絵巻」のお話をちゃんと知りたくなったのでした。

 *古九谷~九谷 東京ステーションギャラリー
  やきもの好きであちこち陶芸を見るようになって時間が経ちます。
  様々なやきもののなかで、九谷の謎は未だに解明されていないようです。
  それでも、あの独特な色世界、デザインの大胆な構図、  
  その魅力は突き抜けています。
  今回、最新情報を持って、東京駅の中、ステーションギャラリーで
  展覧会が開催中です。
  その会場の作り方、キャプション、展示方法、などなど
  様々な工夫が見えて大変興味深く感心しながら鑑賞しました。
  丁寧な画像でカラフルな図録も一目惚れして手に入れました。 
  メインカラーが会場、フライヤー、図録、全体に統一感を持たせているところ
  など、とても心地よいアートディレクションでした。
  天皇皇后陛下もご覧になったそうで、この展覧会の注目度が
  もっと上がることを願っています。
 
 
 
 
 *暁斎展  三菱一号館美術館
  今年は暁斎祭りの一年です。
  この三菱一号館での展覧会では海外からの凱旋絵画が展示される
  ありがたい展覧でした。
  暁斎の愛弟子、コンドルがしっかり彼の仕事をサポートしたお陰でしょう。
  ありがたい事です。
  妖怪お化けを描いていたばかりではない、幅の広さ、
  狩野派で学んだ確かな画力と暁斎本人の描くことへの異常な執着が
  見事な暁斎ワールドを展開させました。
  北斎と共に、もっと日本中にもファンが増殖し、
  世界中のファンが押し寄せる人気絵師となることも近いのではないでしょうか。
  おどろおどろしさの中にもしっかり冷淡な目線があること、
  たまりませんし、色遣いの巧みなこと、惚れ惚れします。

 *これからの美術館事典 国立近代美術館
  やっとギリギリ滑り込みの鑑賞となりましたが、
  この企画への意気込みが感じられるものでした。
  絵画が資料となって、美術館の中の住人として
  どんな生活をしているのかを垣間見る機会でもありました。
  考えてみれば、絵画であれば、一枚の布か、紙の上の世界です。
  なぜ、そんなに惹かれるものが生まれるのでしょう。
  図録の事典でそのヒントが隠されています。
  図録を読む、という展覧会があっても良いのかも?
  と思ったものでした。
  ブログ記事にしましたので、会場の画像などご覧下さい。

 この夏は、久しぶりに知人のお店のアルバイトをしてみたり、
 文芸誌のお手伝いや、ボランティア活動、様々なことが
 降りかかってきましたので、
 アート鑑賞に埋没することがなかなかできませんでしたが、
 それでも、やっぱり面白いもの、楽しいものを見ることの
 しあわせは止められるものではありません。

 芸術の秋、充実の展覧会が開催されます。
 寸暇をねらって、取りこぼしのないよう、頑張りたいと思います。
 五島、根津、三井の三館のイベント、
 静嘉堂のリニューアル、
 千葉美の杉本博司展、
 サントリー美の初個展、久隅守景展
 東博には始皇帝と兵馬俑がやってきます。
 京都やなどは琳派展が続きます。
 どこまで見に行けるか、さてさて~
 みなさまもステキな発見をされますように。

博物館でアジアの旅(その1) 東京国立博物館 東洋館

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 東博、東洋館もお気に入りの建物、展示の聖地です。

 今回も素晴らしい逸品との遭遇を果たしてきました。
 9月の東洋館は秋の新定番として「博物館でアジアの旅」が企画されていました。
 博物館ニュースも多くの紙面を東洋館の企画紹介にさいていました。
 嬉しい事です。

 この日はあろうことか、ブルガリのジュエリーのありえない輝きに
 跪き、降参した後でしたので、
 ゆったりと静かな気配にクールダウンすることが出来、救われました。
 最上階から降りてくる作戦で各特集を見て回りました。
 
 瀟湘八景図屏風 16世紀朝鮮時代 広島大願寺蔵
 10月12日で展示は終了
 大内義隆が一切経を入手するために尊海という僧をを朝鮮に派遣した際、
 帰国時に将来したもので、裏には尊海の当時の日記が記載されているそうです。
 屏風としてのサイズやできあがりに日本とは違う、
 軽やかさを感じさせるもので、朝鮮にも瀟湘八景が水墨画風景として
 定着されていたことを知りました。
 朝鮮の陶磁器にはいつも癒やされます。
 完品を目指してなどいない、長閑な雰囲気は安寧を導いてくれます。
 動物たちのほっとする佇まいに思わず、にやりしてしまいます。



 
 東洋のジュエリーと言う形、如意棒ですか、とドッキリしました。
 如意形時計 中国 清時代 19世紀
 よく見ると、時計がはめ込まれ、
 清の皇帝は機械時計を愛したそうで、
 これはイギリスの時計で銅製の如意につけられていました。
 ガラスの輝きではありましたが、配色もまばゆく、
 清の皇帝の趣味が伝わります。広田松繁氏寄贈、ということにも二度ドッキリでした。
 なんでも見て手に入れていたのだなぁと感心しました。


 中国の漆器がずらり並べられていました。
 こちらも10月12日に展示終了していますが、
 螺旋漆器の逸品が並びました。


 東洋館の図録にも登場する名物が展示されていました。
 龍涛螺鈿稜花盆 中国 元時代14世紀
 図録では龍の髭などの色がもう少し桃色を発色しているのですが、
 展示からは渋い色ですこし地味に見えてしまいました。
 それでも迫力満点。


 中国書画精華ー日本における受容と発展
 この展示のすばらしさ、充実ぶりに本当に驚かされました。
 この展示には南宋時代の名品がずらり。
 11月29日までの展示ですので、お勧めします。
 昨年、三井記念、根津、等で開催された南宋時代の展覧会を
 覚えている方もいらっしゃることでしょう。
 その足利将軍の「東山御物」義満が所蔵した証の「道有」の印。
 いまでもその圧倒的存在感を思い出します。
 それらと肩を並べる名品が、トーハク、常設に!!
 唐絵の最上とされた、梁楷の三幅には「道有」のお印。
 雪景山水図、出山釈迦図、梁楷筆 が展示されるとのこと。
 10月27日からの展示で、国宝です、見逃せません。
 トーハクのブログ1089にも注目です。こちら

 二祖調心図 伝石恪筆 中国 南宋時代13世紀




 六祖截竹図 梁楷筆 中国 南宋時代13世紀
 この作品にも義満所有の「道有」のお印があります。
 足利家→秀吉→西本願寺→若狭酒井家 という伝来を持っているようで、
 三井文庫の「六祖破經図」と対をなす作品だそうです。


 李白吟行図 梁楷筆 中国 南宋時代13世紀
 梁楷の「減筆体」という筆法で、狩野家の模本から江戸時代には
 「東方朔図」と対幅出会ったことがわかっているようで、
 こちらは松平不昧公の旧蔵だったそうです。


 獅子図 周全筆 
 1457年から1487年に活躍し、獅子は「官位栄達」を示す吉祥画として
 喜ばれたようです。親子で遊ぶ姿がユニークでおかしみに溢れています。


 中国絵画の名品がどの程度の物であったかを知る
「御物御画目録」が紹介されています。
 これは三代将軍義満以来、足利将軍に所蔵されていた絵画を
 同朋衆の能阿弥が記録したものの写本で、
 宋、元の絵画、いわゆる唐絵90点、290幅の画題と画家を料紙の種類や
 画面の大きさ、対幅の形式に分類して列したものです。
 とキャプションがそえられていました。
 目録の最後には「東山殿同朋 相阿弥 真蹟也」と読めます。
 鑑定したひとの添え書き、なのでしょう。
 大変興味深く眺めることができました。
 牧谿の重用もここで感じ取ることができます。









 他の特集は長くなったので、また続けることとします。
 9月のアート鑑賞記録も進めませんとね~

 秋のトーハク庭園開放も待ち遠しいシーズンとなりました。

博物館でアジアの旅(その2) 東京国立博物館 東洋館

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 博物館でアジアの旅(その2)
 東洋館の特集があまりにもすばらしいので、つづきをご紹介します。

 中国絵画のあとには
 特集、東洋の白磁 ー白をもとめ、白を生かす (~12月23日までの展示)
 やきもののコーナーに入りました。
 もう、一望するだけで、ため息が漏れました。

 横河コレクションの筆頭をつとめる
 白磁鳳首瓶 唐時代 7世紀 が現れます。



 青山二郎が横河民輔氏に依頼されたコレクションの図版に使用されたと
 聴いている、気高い逸品です。
 底裏の写真も紹介された丁寧な展示です。

 白磁金彩雲鶴文碗 中国 北宋時代 11~12世紀
 見るからに薄作りで端正な形の碗ですが、金彩が施されていたことが
 ほんの少し見て取れます。鶴の首が微妙ですが確認できます。
 金花の定碗の代表作として展示されています。







 鼠志野秋草図額皿 美濃 安土桃山~江戸時代
 白磁輪花皿 朝鮮 高麗10世紀



 白磁蓋付鉢 朝鮮 16世紀
 無地刷毛目 朝鮮 16世紀
 刷毛目三足碗 朝鮮 16世紀





 この三足の刷毛目碗、良い姿でした。

 茶碗茶器の関連から、
 不孤斎が愛した小さな器 ー茶入、振出、香合
 が12月23日まで特集されています。
 
 日本橋に今もある、古美術商「壺中居」を始めた広田松繁(不弧斎)が
 収集し、愛蔵した香合などを、自ら仕立てた仕覆、包裂、箱なども併せて展示されました。
 昭和47年(1972)に五百点近くの収集品を東博に寄贈したのだそうです。
 ただただ愛らしいので、画像で想像して頂ければと思います。
 わびさびの地味で控えめな茶器のなか、
 茶室をぽっと明るい色を添えてくれるのが香合です。









 呉須赤絵牡丹香合 は明時代の型物香合といわれ、
 安政2年刊行の「型物香合相撲番付」で前頭上位にランクされたようです。

 茶人たちのコレクションという流から、
 中国の染織 名物裂 (10月12日に展示は終了)
 こちらの特集も見逃せませんでした。
 江戸時代の茶人たちに収集された元~明にかけて
 中国から日本に舶載された名物裂の様々な残布を見事に図版化して美しい
 姿にしました。
 出雲の大茶人、松平不昧公の編集「古今名物類聚」「名物切之部」を
 パネルで参照できました。

 そして、
 もう一つの特集、漢・唐時代の陶俑 (~12月23日までの展示)
 唐時代の副葬品として「陶俑」が生まれましたが、
 これを日本でいち早く評価したのが、
 中国陶磁コレクターの横河民輔氏でした。
 また、当時の画壇、安田靫彦、小林古径などの画家たちにも
 注目され、愛蔵されたようです。
 ほか、ともに展示されていた可愛らしい作品にも注目でした。
 1089ブログも充実内容です。こちら









 最後に、
 なんと、大倉集古館の重鎮のように展示されていた
 大きな大きな平鉢の行水桶のような
 夾紵大鑑 (きょうちょたいかん)
 と再会しました。
 中国古代の戦国時代 前5~3のもの。
 漆工芸の世界では大変なものだそうで、
 重要美術品となっています。
 カメラ禁止なので、トーハクのサイトで姿を確認して見て下さい。
 (参考:東京国立博物館ニュース、東博サイト)

 アジアの旅は中途に終わりましたが、
 時間切れとなりました。
 特別展だけの東博ツアーは実ももったいないことです。
 紅葉の季節、庭園開放もぜひ愉しみたいと思っています。
 








9月のアート鑑賞記録(2015) 

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 大変ご無沙汰してしまいました。
 なかなかパソコンに向かう時間がありませんでしたが、
 ようやく、9月の振り返りをしようと思います。
 鑑賞した記憶が怪しくなってしまいましたが、
 備忘録程度とご容赦下さい。

 *院展 東京都立美術館
  山口裕子さんが出品されたとのことで、 
  ほとんど他の作品はスルーし、山口さんの作品を拝見してきました。
  少し色目がダークになったように思いましたが、
  対象の動物、ペンギンさんが思索の夢を見ているようで、ステキでした。
  いつも、命への賛歌を感じます。

 *うらめしや~、冥土のみやげ展 藝術大学美術館
  後期に登場する伊藤晴雨のおどろおどろしい
  鬼女「怪談乳房榎図」を見に行きました。
  迫真迫る緊張感は他の幽霊図がぼやけてしまうほどの存在感を放っていました。
  蚊帳がつられた会場にはいつのまにやら
  しめ縄が張り巡らされ、霊界との結界に除霊をしているように見えました。
  お化けの女性を描くことが流行ったという時代、
  女性の般若の姿を恐れていたのは、伊右衛門ばかりではなかったはずです。
  現代の恐怖はどんな姿のお化けでしょうか。
  「焔」の六条御息所の怨霊は鎮まることができたでしょうか。
  全生庵のコレクションを初めて実見でき、大変喜びました。

 *東京国立博物館 常設
  本館での特集、「春日権現験記絵模本」
  「後水尾院と江戸初期のやまと絵」「能面」
  などをたのしむことができました。
  ブログ記事にしてありますので、画像などご参考にどうぞ。

 *9月文楽公演 国立劇場小劇場
  面売り、鎌倉三代記、伊勢音頭恋寝刃
  面売りは、大道芸の軽やかな案山子と面売りの娘の掛け合う楽しいお芝居。
  鎌倉三代記は、大坂の陣を題材にしたもの、敵味方のなかでの恋心が
  純粋でけなげです。
  伊勢音頭恋寝刃は伊勢の遊郭で切った貼ったの残忍な場面が特徴です。
  万野の意地悪ぶりと、振り回される貢が哀れ。
  文楽初体験の友は大喜び。
  ご縁ある方のお手配で、バックステージツアーに参加できたことも
  人形を持つ体験もさせてもらえ、嬉しいこと尽くしでした。

 *スサノヲの到来ーいのち、いかり、いのり 松濤美術館
  木彫がご専門の彫刻家佐々木誠さんより
  この「スサノヲの到来」展のご案内を頂いていましたが、
  去年の暮れあたりから立て込んだ事情が重なってなかなか鑑賞に出かける機会を
  見いだせなく、申し訳なくも残念に思っていました。
  せめて、川村美術館に伺いたかったものです。
  遠く、道立函館美術館巡回を終えて、最終の展示会場の松濤美術館に
  ようやく、やっと、行ってきました。
  まずは展示されているものから溢れる日本古来の原始パワーに圧倒されました。
  縄文から古事記の世界、、民俗学、考古学、そして
  スサノヲの変遷と現代作家による解釈にわたり、
  どうやって感想を述べたら良いのか、途方に暮れてしまいました。
  あらぶれるスサノヲの魂はいつの世も生きている人々の
  祈りによって鎮魂されてきたのでしょう。
  寡黙な「八挙須(やつかひげ)」(佐々木誠作)の静かな姿は
  内面にふつふつと沸き上がる人々のいのち、いかり、いのりをしまい込んで
  激情となって燃えたぎっていても、瞑目し享受し、
  そのエネルギーを塞いで飲み込んでしまっているかのようでした。
  静寂でひどく熱いことにたじろいでしまいます。
  この展覧の企画に喝采を贈りたいと思います。


 
  その後、銀座の奥野ビルにある、ギャラリーさわらびを訪問し、
  佐々木誠さんの作品を拝見し、スサノヲの熱を拡散しなければなりませんでした。
  激情、気がつかないうちに見失っていませんか。
    




 *湯島天満宮宝物館 「利休を超えた織部とは?」
  今春、受験生の保護者という立場から解放されましたので、
  まずは愚息の大学進学のお礼参りをしました。
  湯島天満宮の境内に宝物館があり、そこで織部の展示があると、
  Twitter情報を得ていたので、なんとか、会期中に行って見たいと思っていました。
  決して広くはない会場には、驚きの名品の展示に
  ドキドキしながら二周めぐって見て回りました。
  会場では図版の販売も有り、ついつい求めてしまいました。
  利休の雲水のようなストイックな姿に陶酔を感じつつも
  荒ぶれるひょうげ者の方がが愉快で爽快な気持ちにさせてもらえます。
  信長、織部、秀吉、秀忠、近衛信伊、利休、宗易、伊達政宗の筆が並び、
  戦国武将たちが命がけで茶の湯の一座にいたことを改めて知らされます。
  茶器も数多く、出品され、それぞれの個性の強さに
  新しい時代の風が吹いたこと、それ故の短命を辿ったのだろうと
  はかなさともののあはれのつわものどもが夢を垣間見たのでした。
  茶器の頂点が生まれた時代、武将が天下を目指したことと
  呼応して狂気が乱舞しているようです。 













 *躍動と回帰 出光美術館
  湯島天神での織部展のあとに、
  出光美術館での「躍動と回帰」をみてきました。
  安土桃山時代の特別な時代を現代人も惹きつけられ、
  TVでも信長をどれだけ見てきたことでしょう。
  武将たちの茶の湯の熱狂は茶器の姿も振り切れた異端を
  好んだのかも知れません。
  唐物の極上の天下一、東山御物から、侘び寂びの極み、長次郎の茶碗
  利休亡き後、その振りが真反対に動いたかのような、
  歌舞伎ぶり、ひょうげもの。
  そして南蛮という渡来文化の珍しさ。
  そのエネルギーの熱温はいまもなお人々を魅了し続け、
  飛び跳ね、そしてぐるりとまわって、心躍ることを今の人々さえ
  動かし続けているのです。
  美濃はほんとうに面白い作陶をするところだと感心します。
  その向こうに、静かな長谷川等伯の香りが低く垂れ込めていたようでした。

 *牙彫美術館
  久しぶりに両親の住む伊豆高原に愚息と行ってきました。
  そこに、新しく、牙彫刻専門の美術館が生まれていました。
  ともかくその呆れるほどの彫りにあんぐりするしかなかったのでした。
  日本の作品も数点ありますが、ほとんどが中国の作品だそうです。













 *月映 東京ステーションギャラリー
  田中恭吉、藤森静雄、恩地幸四郎、その三人の若き友情物語。
  美しくも儚い、命の欠片を版画に乗せてキラキラ輝かせていた
  「月映」という雑誌。
  たった2年の間、田中恭吉が結核の病を背負いながらも
  藤森静雄、恩地幸四郎が手をさしのべ、
  静かな画面から、嗚咽の諦めが光となって哀しい美しさを放つ
  どうしようもない魅力にうずまってきました。
  恭吉のちいさな、真面目な文字が気力の続く限り、こつこつと
  綴ったのかと感じられた筆跡に大変ひかれました。
  図録も美しく、はるかな精神の浄化にうっとりするのでした。
  木版画に精神世界を淡々と刻み、その時間だけは生きていた
  証となったのでしょう。
  ざわざわした心を鎮めてくれる、煉瓦の壁にもフィットした
  素晴らしい展示でした。




 *蔵王権現と修験の秘宝 三井記念美術館
  三井記念美術館内が蔵王権現に埋め尽くされていました。
  片手片足を挙げ、怒りの形相でこちらを威嚇してきます。
  今も、修験者は山伏の姿となって、「懺悔懺悔六根清浄」を唱えながら
  厳しい山岳で修行するのです。
  今回は奈良の吉野金峯山から、藤原道長の経文を収めた経筒(国宝)が展示され、
  役行者縁のもの、別名投入堂といわれる、三佛寺からも
  安置されている蔵王権現像などがどうやって運び込まれたのか、
  断崖絶壁の厳しい場所からの展示に驚嘆しました。
  普段なかなか現場に行かれないところからの出品で、
  これだけの数の蔵王権現像をずらり実見できることはまれなことだと思いました。
  様々な事から断ち切る、剣印をしゅっとしながら、
  自身を戒めたくもなりました。

 *ボルドー展 国立西洋美術館
  会期末迫る頃、久しぶりの西洋美術館に行ってきました。
  ボルドー、ワインの産地、海洋貿易で盛んだったところ、位な程度の認識でしたが、
  ボルドーという土地に焦点を当てた展覧会。
  ドラクロワの大作、「ライオン狩り」が目玉作品ではあったけれど、
  工芸品なども沢山展示され、
  ブレタン、ルドンの版画や、印刷関連のものも興味深く
  楽しく鑑賞することができました。
  同時期に新館の版画素描展示室で
  「没後50年 ル・コルビュジエ 女性と海 大成建設コレクションより」
  という小企画展が展示されていて、
  建築家コルビュジエの画家としての側面に触れることができる
  西美、ならではの企画でした。




 *ブルガリ展 東京国立博物館表慶館
  時々、表慶館は超セレブのブランドハウス別館に変わります。
  今回はあの、イタリアのジュエリーブランド、ブルガリが表慶館を
  一流ブランドハウスに変えてしまいました。
  その見事な違和感のなさに驚嘆しました。
  まるで接点のないジュエリーの世界。
  エリザベス・テイラーコレクションをはじめ、
  宝石の輝きを存分に光り輝かせた130年の歴史を
  ザクザク魅せてくれました。 

 *東京国立博物館 東洋館
  「博物館でアジアの旅」はブログ記事にしました。
  東洋館はやはり時々行きたくなるところで、
  驚きの特集をこともなげに披露してくれます。

 *歌舞伎座 双蝶々曲輪日記、紅葉狩、競伊勢物語
  突然、時間ができたので、秀山会、行ってこようと、思い立ち、
  歌舞伎座昼の部に行ってきました。
  当日でも2等席あたり何とかなる場合があるのです。
  それにしても最近のジュニア世代のご活躍、嬉しい限りです。
  双蝶々曲輪日記、二組の男女で盗人扱いに振り回されるお芝居を
  華やかに、芝雀と錦之助、梅玉と魁春が実直な二人を演じました。
  紅葉狩、これは染五郎の一人芝居で可憐なお姫様から
  鬼女に変身して荒ぶれるのでした。
  染さまはこういう変身モノ、お好きでしょうね~
  競伊勢物語 このお芝居は復活ものだそうで、
  播磨屋の正義と親の絆、男女の情け、それらが綾となって
  東蔵さんとの掛け合いも素晴らしく、じ~んとするものでした。
  染五郎、菊之助の二人の可憐な夫婦姿も痛々しく麗しいのでした。

  そして、三津五郎さまも、彼方へと。



 もう9月のことは2ヶ月も前のこと、すっかり記憶の外にいってしまっているようです。
 思えば、色んな所に行かれたのでした。

10月のこと

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 10月は多忙を極めました。

 今年4月に亡くなった市川在住だった夫人の遺されたものが大変大きくて、
 未だに相続と、片付けと、新たな市民活動のスタッフと、
 関連する様々が押し寄せてきました。
 何も知らない25才頃からのものを見ることを
 沢山教わってきたので、多分、天空から指令されたのだと
 思い、最後まで、しっかり見届けようと覚悟したのでした。
 遠方より墓参の希望があればご案内し、
 残された生活用品などを取りに来たいと言えば、
 ドアを開け、弁護士との面談もし、
 マンションの管理もご近所の方のお世話も頂きながら
 週に一度程度郵便物などを受け取りに行き、
 遺族のない人の後片付け、相続がどんなものなのかを
 体験中、というわけです。
 新しい市民活動の公開の許可が得られましたら、
 どんなことをしているのか、ご案内できればと思っています。

 また、10月は花展がラッシュでした。
 7日から13日まで、日本橋高島屋でいけばな芸術会による展覧が
 開催され、参加する様々ないけばな流派がそれぞれのいけばなを
 披露する展覧です。



 私の先生が9,10日に出品するので8日の夕方からのいけこみ、
 10日のあげばな(片付け)を体験しました。
 合作で、高さも1メートル以上でしたから、
 使用する花材も大変な量を使いました。
 鶏頭の花を30本以上、水切りし、葉を全部取り払います。
 ドウダンツツジの大きな枝も切り分け、
 いらない枝を払い、葉の綺麗なところを残します。
 いけこみは段々と美しい姿を見届けられる楽しみがありますが、
 あげばなは、次のいけこみの方が待っているという現場なので、
 少しでも早くその場所をきれいにして明け渡さなければなりません。
 30分程度で片付けられ、拭き掃除もして次の方に場所を
 提供します。花や、枝はまだ元気なものは持ち帰り、
 少しでも残念な状態となったものは容赦なく廃棄します。
 そのための用具もそれぞれの先生が工夫され、
 そのためのグッズ袋も完備されていることも勉強となります。
 慌ただしいいけばなの展覧が花をもてあそんでいるような
 痛々しい側面もありますが、
 参加する各流派のお披露目の年一度の機会なので、
 花の命と共に、いけばな作品が勢揃いし、
 火花を散らし、消えてゆく様は圧巻です。
 高揚感と残酷な華やかさをたった2日間その場に飾るのでした。
 会場はむせかえる錦秋の雅な色に満ちていました。











 22日から25日までは通う草月教室内でのいけばな勉強会。
 いけばなの他、レリーフ制作もあり、それぞれ参加者の工夫が楽しい
 展示となりました。
 私は、飯能窯で制作した自作花器を使っていけましたが、
 花器とのつきあいがまだまだ足りなく、
 教材の花材をうまく表現しきれなく、課題はまだまだ山積だと
 実感しました。
 花材は自分の使いたいものではなく、教室で渡されるものを使います。
 教室内でのみなさんと一緒に展示する体験も滅多にないことなので、
 楽しく花の手入れなど経験しました。
 いけこみが終わって、翌日、その花の変化に驚くこともしばしば。
 空調や、気温や、その花の性質などもあって、
 3日間おなじ状態を保つことは至難の業なのです。





 その間、高校時代の友人のご主人が亡くなりました。
 お誕生日は私の一日後という、若さです。
 一昨年難病指定され、事業を後継者に引き継ぎ、
 しばらくは自宅で養生して、遊びに行ったときも
 女史会話のやかましさにもニコニコしながら
 時々おしゃべりもしましたが、
 今年の2月、急変しました。
 お孫さんが生まれ、嬉しいニュースもありましたが、
 10月に入って、あっという間に天に召されたのです。
 友人のこれからを楽しい時間とするために
 旧友たちで機会をみては外に連れ出そうと思っています。
 大丈夫、私たちがいるからと、
 優しく微笑んだ遺影のご主人にお伝えしてきました。

 自分の時間がなかなか持てませんでしたが、
 アート鑑賞、してきたもの、次回のブログに記録しておきます。


あおひー展 ー道草模様ー ART POINT.bis

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 あおひーさん、この方のミステリアスな写真作品とは
 アートブロガーのTakさんを通じて
 もう何年経つことでしょうか、初期のころから
 ご縁を頂き、拝見してきました。
 
 焦点を持たない写真があるってこと自体が、すでに挑戦です。
 そして、見る人の視線を集めつつも
 写真に写り込んだ実体は何なのかという謎解きが
 見る人と作品に楽しい関係を作り出してくれます。
 それは、あおひーさんの作戦で、
 毎回、まんまとひっかかる、珍しい体験をするのです。

 そのあおひーさん、久しぶりの展覧のご案内を頂きました。
 銀座8丁目の ART POINT.bis のオフィスエリアに展示されるそうです。
 会期は9月21日~10月10日までとゆったりめでしたから、
 なんとか伺えると思っていましたが、
 ギリギリ会期末になってしまいました。

 それでも、あおひーさんが在廊されていて、
 色々とお話を伺いながら拝見できたのはラッキーでした。

 作品の写真を許されましたので、
 色々撮らせて頂きました。

























 ご本人のブログに作品のこと,熱く語っていらっしゃるので、
 ここは、リンクはって、ご紹介致します。こちら

 作品はモノクロだったり、静かな色だったりしましたが、
 今回はなんとカラフルで、びっくりしました。
 作品が変化してくる、これもまた見る人の目を喜ばせてくれるものです。

 展示が終わると、毎回これまた丁寧なお礼と展示作品の
 しおりサイズが届くのも、楽しみとなりました。

 一段とカラフルに変化し、表面に水玉の表面張力ギリギリの水滴が
 膨らんでついている作品もチャレンジ精神溢れるものでした。
 


 作品群の中で、真っ赤なつつじの作品がお気に入りでした。
 ガツンと赤の力にパワーを感じたのでした。

 これからも進化し続けるあおひーさんの作品を
 心待ちにしたいと思っています。
 あおひーさん、楽しい時間をありがとうございました!

Secret Garden 鈴木祥太 個展 プラグマタ

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 金工の鈴木祥太さん、私のTwitterにご案内が届いた、そういった
 今時のきっかけを頂いたのが始まりでした。

 でも、彼の作品は実物を見ないと、そのありえない緻密な繊細な
 リアルな存在のどちらかというと陰の薄い草花に光を当てることのまなざしに
 ひとめで降参するしかないのです。

 機会があればなんとか見たい、そんな気持ちにさせてくれます。

 今回のインビテーションも素晴らしかったので、
 いったい、どんなギャラリーかとドキドキして行ってきました。
 10月10日の事でした。



 そこは、八丁堀。
 日本橋の裏で昭和をまだ続けているような
 そんなところの古いビルの三階にありました。



 ギャラリーに入ったとたん、
 そこの世界観に見入ってしまいました。

 ギャラリーオーナーの好みが溢れています。
 プラグマタ Facebook こちら

 小さな小引き出しが少し引き出されていて、そこに作品がつんつんと立っていたり、
 金網があってある棚から垣間見えたり、
 
 木製の古い棚が陳列台となって、
 金属の質感と一緒に生息している、そんな感じでした。

 カメラ撮影はできなかったので、
 その画面をお伝えするのがもどかしいのですが
 ご本人のサイトも貼っておきます。こちら

 それで、ついつい、彼の魔法にひっかかり、
 ちいさなもの、衝動買いしてしまいました。
  えっ!いいんですか?って祥太くん。



 祥太くん、とつい呼んでしまっていますが、
 まだ若い作家さんで、京都に暮らし、
 あんこ好きな好青年です。

 きっと日本だけじゃなく、世界にあの緻密なアホのような繊細さの
 作品が飛んでいくような気がしています。

 最近はシカゴでも展示する機会があったとか。
 今後も元気でそのまま好きなことだけを続けていって欲しいと願っています。
 (ほとんど、母目線)

杉本博司 今昔三部作・趣味と芸術ー味占郷 千葉市美術館

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 日々、追われることで、ヒーヒー言っておりますが、
 この日、突然午後から千葉に行けそうな気配、いや、行こう!と
 その時が転がり込んできたことを驚喜しました。

 tweetでなんだかおなじ所に行くという仲間が。
 では、と現地近くのケーキ屋さんでライトなランチをし、
 おしゃべり交換などもして、いざ、千葉美へ。

 私は人が悪い。
 そう「趣味と芸術」の著書あとがきに断りを入れる、杉本博司氏、
 こういうへそ曲がりのおじさんのイヤミ、本当に好きです。
 しかし、本心の本心のその核心には美、である事でしかなく、
 美への深い愛情と忠誠に、全身全霊およぶことがないと諦めつつも、
 ひざまずきます。

 その諦めは白洲正子への憧憬、にも似て、
 その人に集まる人々のまぶしきことも、似ていると実感します。
 
 つまり、美の追究はある一定のレベルのステージに住み着いている人にしか
 わからない共通語を持って繋がっているのだろうと、漠然と思います。

 骨董の名品は名品を巡る人々の中でしか回らない、そういわれることも
 納得できます。

 とはいえ、杉本博司氏の世界観から溢れる魅力と危険な毒素に
 溺れに行かずにはなりません。

 著書や、ドキュメント映画、杉本文楽、原美術館での展覧、
 身の丈に合うわけがないとは思いつつも、
 追いかけてきた私へのご褒美展覧です。



 フライヤーの洒落気、
 三部作の表紙を広げると正面にその案内、反対側は味占郷の案内。
 味占郷のほうから開けると正面が味占郷。
 いちいち嬉しいです。



 展覧は三部作、モノトーンの写真作品から始まります。
 会場に入ると大きな緩いカーブの壁に
 「海景」といわれる連作が均等間隔に並びます。
 1980年からとり続けてきた、カリブ海、隠岐、エーゲ海、
 ボーデン湖、リグリア海、スペリオル湖、
 よくよくみるとそれぞれの表情の違いに気づき、
 太陽の映り込み、とか、さざ波、とかを発見することができます。
 この景色の前に杉本氏はずっと座り続けていたのでしょうか。

 その写真への取り組み方は
 劇場シリーズによってまた驚嘆させられます。
 映画が劇場の幕に映されている間、ずっとカメラの目が開け放たれていて、
 残された画面は真っ白け、という残念さは物語のもののあはれ、
 を象徴しているのかもしれません。
 劇場の様々な装飾過多な様式美具合もそれを儚く思います。

 次のジオラマシリーズ、
 1976年のハイエナ・ジャッカル・ハゲタカ、が初作です。
 桃山の花鳥画を思い出しました。
 曽我二直庵が水墨画で鷹を雄々しく描きましたが、
 それをふと思い出したのです。 
 そう思うと、他の作品も水墨画、山水画、の構成の様相です。
 そうか、写真で水墨画を描いたのかと、勝手に合点しました。
 オリンピック雨林は、長谷川等伯の松林図、
 菱田春草の落葉、にも通じなくはありません。
 
 堂々たるモノクロの大作シリーズ、今昔三部作の後は
 趣味と芸術の世界、会場は階下へ移動します。
 
 入ったとたん、畳の青々しい香りに包まれ、
 この展示のために、畳を新調したのかと、恐れ入ったのでした。
 最初の床がまた、杉本氏のニューヨークに作られた
 茶室を思い出しました。
 古木がはめられ、結界の板にガラスの太い足が光ります。
 ロンドンギャラリーだなぁと感じ入ります。
 床飾りは 華厳瀧図 これは那智瀧だろうと思います。
 ケースなしで近くまで見に行くことができます。
 直ぐ近くに 女神像がその場を見守っているようでした。

 このイントロダクションにまずはガツンとやられるわけです。

 そして、昨年、MOA美術館でお披露目された、実見できず残念でしたが
 紅白梅図屏風のプリント屏風が厳かにほのかな照明の下鈍く光ります。
 同行者はそこには必ず須田悦弘さんの梅があるに違いないと
 ご存じの人なので、ほうら、と近寄ります。
 白梅が案の定、屏風の足下に散らされています。
 須田さんだ~とうなります。
 おもむろに右に移動すると、
 屏風を照らす光線が切れた所の裏側から赤いものがちらり見えるではありませんか。
 須田さんの紅梅の花弁。
 鳥肌が立ちました。

 床飾りが延々と続くのですが、いちいち感想を述べていって良いのやら。
 ケースの中はやはり青い畳が敷いてあります。
 丁寧な仕事に感銘します。

 味占郷というのは、婦人画報で連載されてきた
 「謎の割烹 味占郷」という企画の中で、
 杉本氏が各界の著名人をおもてなししたときの床飾りを再現したもの、
 という事だそうです。
 杉本氏の純粋趣味の世界で収集してきたものを
 ゲストにあわせたしつらいを企てたという事です。
 そのエピソードがいちいち面白いので、著書「趣味と芸術」を
 手に入れてしまいました。

 おもてなし、することの楽しさと、いやらしさのせめぎ合い、
 とはいえ、割烹のオヤジに変身してもなんの疑いもなく、
 むしろ、その道40年です、みたいな職人の姿があまりにも
 ぴったりで仰天してしまいますが、
 こだわりの人には何の問題もなかったのかも知れません。

 床飾りは25点程度あり、
 その一つ一つを取り上げて感想にしていたら大変なので
 止めておきますが、
 表装の自由さ、時代や世界を飛び越えた収集品に低通する
 滅びたものへの哀惜、
 人間がやらかしてきた事への救いの道と終わらない愚行への諦め、
 とはいえ、そこにこそ儚き美が住まっている、
 そういった無常観がひしひしと迫ってきました。

 ポイントに、須田悦弘さんの木彫の草花が色を付けます。
 命は終わっている素材なのに、床飾りに息吹を与えます。
 利休の消息には須田さんの可憐な朝顔が添えられます。
 フライヤーにも使われた、
 南北朝の兜には夏草がそっとつわものどもが夢を残します。

 ガラスで有名なイタリア、ベニス、ムラノ島でガラスを修行されたのでしょうか、
 村野藤六という名前でガラス茶碗作家として作品を作ってしまいます。
 それも、茶陶のような渋さと、
 一入のような黒の中から赤が浮かぶような作り。
 当初、知人ガラス作家と混同してしまいましたが、
 いきなり正倉院御物の写真を見せてこれを作りたいと
 仰ったことあたり、常人の技ではありません。

 所々に海景を忍ばせたガラスの五輪塔があったり、
 驚きの表装に声を上げてしまいました。
 
 大倉集古館で根来展が開催されたことがありましたが、
 (これも、杉本氏の企画でした)
 そこで奈良の二月堂焼経とお水取りの鉢、
 そこに須田さんの椿のコラボにため息を漏らしたこと思い出しました。
 今回もその二月堂焼経が春日若宮の懸仏とともに現れました。
 
 そんなこんなが詰まった、展示にただただわくわく楽しく
 驚喜し時間を忘れることができたのでした。

 著書のなかで紹介されていた、
 「監獄茶会」これが秀逸で、
 お菓子が「くもの糸」!!
 救われないことのサディスティックな痛みよ。
 本当に高級なあそび、というのはこういうことを本気で
 真面目に取り組める大人がいることを嬉しく敬慕し、
 憧れをまた、一段と深く感じたのでした。

 あそびをせんとやうまれけむ。

 しかし、とはいえ、
 具された極上の料亭の味を賞味願いたいと思っては
 いけませんでしょうか。

 もてなされたゲストにストライクな料理写真が
 恨めしいほど美味しそうなのでした。

 五感にずんずん入り込む、危険な展覧でした。
 思わず、「歴史の歴史」をアマゾン買いしてしまったのでした。

 文化と政治は紙一重と仰る杉本氏の祭りは終わり、
 寒々とした風が一陣通り抜け、
 冬が来ることを教えてくれるのでした。 

 滅びることをくりかえす人の世は
 まこと、自然と虚ろをゆりうごくだけのもののように
 思えてくるのでした。
 この悪趣味な陶酔境は12月23日までの興行です。(ニヒリスト的に)

 参考:「趣味と芸術」ー謎の割烹 味占郷 杉本博司著
     千葉市美術館サイト


10月のアート鑑賞記録 (2015)

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 10月のアート鑑賞記録、やっとこさ、顧みることとしました。

 *あおひー展 ー道草模様ー  ART POINT .bis
  ブログでご紹介しました。

 *鈴木祥太 個展 "SECRET GARDEN" プラグマタギャラリー
  こちらもブログでご紹介しました。

 *根津青山の至宝 根津美術館
  久しぶりの根津美術館で、財団創立75周年記念特別展としての企画展に
  行ってきました。
  初代根津嘉一郎のコレクション展の奇跡ということからも
  明治から大正にかけての収集のすばらしい名品を目にすることとなりました。
  国宝から重要文化財などがザクザクお出ましです。
  根津のお宝と言えば、那智瀧図、なのですが、
  まだ拝見していないことに気がつきました。
  新しくなった根津美術館の開館記念にも出品されたと思いますが、
  会期が合わずに、残念なことでしたが、
  ようやく、目の前にすることができて、終にこの時がきたと
  瀧のご神体との初対面を喜びました。
  東博東洋館での名品陳列でも中国南宋の唐絵を拝見しましたが、
  こちらの国宝、鶉図や、重文、夕陽山水図の著名なものをみると
  青山氏の収集のレベルの高さにただ感嘆するのでした。
  茶会記に記された茶器が紹介されていたり、
  茶に対する思い入れがどれほどのものだったのか、
  当時の事業家の茶に対する情熱がどのくらい熱いものだったのか、
  茶室が点在する深々とした緑の庭園に静かでも整然とした筋の通った
  コレクションに茶人としての意気込みを感じられたのでした。
  次回は、物語をえがく、として王朝文化から御伽草子までが並ぶそうです。
  絵巻となった源平の物語も熱を帯びることでしょう。

 *琳派と空きの彩り 山種美術館
  特別展、琳派400年記念
  こちらの展覧会に会期ギリギリに滑り込めてホッとしました。
  根津美からお散歩気分で歩いて移動してみました。
  暑い夏は厳しくとも、季節に良いお天気の日にはお散歩もいいものです。
  こちらでは展覧会にあわせて色とりどりの和菓子がデザインされ、
  それを頂くことも楽しみの一つでもあります。
  今年は琳派400年の記念之一年あちこちで琳派の作品が並べられています。
  山種所蔵品で宗達と光悦の短冊の愛らしさを再見して嬉しくなりました。
  乾山、芳中のやわらかな表現と、抱一のしっとりした情緒の作品群は
  下絵も展示され、興味深いものでした。
  のちのち、継承されていった琳派。
  加山又造の華扇屏風に見惚れました。
  そうした、琳派に学んだ昭和の日本画家の作品を見るに付け、
  日本デザインの根底に琳派が流れていることは
  避けられない事のようだと思います。
  誰のためでもなく、所有し,飾る人のために
  肩肘張らず、ゆったり紅葉狩りをするように、絵を愉しむ、
  それだけでいいではないかと、素直に思うのでした。
  現在は、重要文化財指定記念として村上華岳ー京都画壇の画家たち
  が、開催中です。
  オークラに現れた、岡本神草の「口紅」が展示されますし、
  華岳の「裸婦図」目の前に見てみたいものです。
  そして鑑賞後のお楽しみのお茶タイム。
  美味しゅうございました。

  
 *杉本博司今昔三部作 趣味と芸術 味占郷 千葉市美術館
  この展覧会についてもブログでご紹介しました。
  この味占郷の世界は本当に好みのツボでしたので、
  本を片手に杉本氏の慇懃な語り口ににやにやしながら
  しつこく咀嚼をいじいじ愉しんでいるところでございます。

 というところで、10月が終わっていました。
 11月は既に半ば過ぎですが、無理せずに目の前の事を真面目に取り組もうと
 思っています。
 いい加減、衣替えもしませんとね。
 各美術館も今年最後の展覧会が開催されています。
 そんなことに気づいて、ギョッとしますが、一年は早すぎます。
 紅葉も色づいていることでしょう。自然界との対話不足も痛感中です。
 体調管理、おこたりませんように。
 また、しばらくブログアップが遅くなるような気配~ですが、
 アンテナだけはしっかり立てておこうと思っています。

11月のアート鑑賞記録(2015)

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 11月はアート鑑賞記録、とするほどの事はないのですが、
 それでも、行った事を記録しようと思います。

 *浮世絵から写真へ ー視覚の文明開化ー  江戸東京博物館



  毎年このシーズンに早く天空へ旅たった友人の偲ぶ会を重ねています。
  大学時代の友人達は親を見送り、子供達が巣立ち、結婚などもして
  お孫さんの話をするようになりました。
  それでも、一瞬であの青春の不透明な時代の熱気に連れて行ってくれます。
  その一行で、江戸博に行ってきました。
  浮世絵から写真へ。
  写真が発明されて、絵師達のショックは如何ばかりだったことでしょう。
  それでも、新しいものの誕生は歓喜も呼び起こします。
  最初はいつもセレブな人々の手によって、広められます。
  絵師は写真では描けない世界観を表現しなければならないのです。

  まずは写真が登場する前の名所、風俗の屏風の展示で江戸時代を思います。
  役者絵もあり、粋な浮世絵らしい景色を愉しみます。
  そこに、鶏卵紙という紙に焼かれた写真が現れます。
  木箱に入れられ、大変大切に扱われたことが知れます。
  写真家、といわれる日本人の最初の人たちなのでしょう。
  上野彦馬、下岡蓮杖、内田九一、横山松三郎、鈴木真一、小川真一、などなど。
  小川真一の名前は知っていましたが、後の方はまったく知りませんでした。

  福沢諭吉、永井荷風、明治天皇などの肖像につづき、
  皇族の小松宮家の重厚なアルバムはやはり写真が上流の人たちのもの、
  という事だったのでしょう。
  
  展示品の中にやたらキッチュでシュールなものがありました。
  江崎禮二「1700人の赤ん坊」それもコラージュしてしまっていて、
  赤ちゃんによほど興味を持ったのか
  豆豆な赤児の顔がびっちりつまっている写真には仰天しました。
  こういうことしたくなる人、いつの世にも現れるのだと、
  感嘆しながらも受けてしまいました。
  
  五姓田芳柳の明治天皇の肖像画、ほか、伝付きでしたが、
  外国人男性、女性の和装像も並び、時代の変化が伝わってきます。
  今年は子息の義松の個展が開催され、記念の年となりました。
  写真に彩色した高橋由一の名前があり、モノクロ写真に色付けした高橋由一、
  そういう仕事をしていたことに驚きました。
  
  抱一の光琳百図も展示されていました。
  最近のニュースで足立区から抱一や谷文晁の作品が旧家から数多く発見されて
  来春、展示される予定となったとか。
  人々の生活の近くにいたことが実感できるのではないかと
  郷土博物館での展覧が楽しみです。

  また、泥絵、ガラス絵などが登場し、珍しいものがどんどん浸透して
  人々に受け入れられていった様子が手に取れます。
  
  「富士山風景図」 写真貼付ガラス絵というコラージュされたような
  ガラス絵の上に写真の人物像の切り抜きを貼り付けるという
  大きな不思議なコラージュ作品に興味を持ちました。

  また、別なところで「江戸名所百人美女」と同じような
  「凌雲閣百美人」がびっちり壁に展示され
  時代の好み、人気ランキングなども楽しめるようになっていました。
  ラストはご当地もの、お相撲さん浮世絵、写真、
  そして、当代横綱の白鵬の巨大優勝額がお目見えし、のこったのこったの
  思いがけず楽しい展覧でした。 

 *ニキ・ド・サンファル展 国立新美術館



  ニキの作品とは随分前に箱根の彫刻の森に行ったときに
  野外彫刻の中にカラフルでユニークな巨大女性像を見たことが最初だったと思います。
  それからというもの、カラフルな丸っこい体躯の彫像は
  ニキ、と覚えたのでした。
  しかし、彼女の事はまるで知らず、どんな女性だったのかを
  ようやくこの展覧で知ることができたのでした。
  初期にはポーリングをしたポロックの影響を見ることができたし
  ニキを紹介するビデオでは
  銃を構えて「射撃絵画」作品を制作するという
  仰天の手法でそのパフォーマンスごと見る人をあっと言うわせる美女、
  という見所要素を存分に披露していました。
  派手なパフォーマンスに見えても、実は武器を制作に使って
  戦争暴力を訴えていたのです。
  そして、保守的な家庭環境に育った彼女は、
  女性であることに強い関心を持ち、社会性の強い作品を作っていきます。
  ちょうど時代はフェミニストたちによる女性活動、反戦、そんな市民運動とも
  リンクして、社会的側面も強く感じました。
  そんな彼女を日本女性が目に留めて以来、ニキの大ファンとなって作品を
  コレクションしていきます。
  YOKO増田静江さんという方で、日本にニキの美術館も作ってしまいます。
  感じるところのベクトルが合致した二人はそれから20年以上の交流を持つのでした。
  女性ならではの問題、悩みなどを通しても強力な引き合う力があったのだと
  想像します。
  カラフルでパワフルな作品群からはちまちましたことを思い悩むことから
  一瞬でも解き放ってくれる痛快な癒やしパワーが溢れています。
  会場内はなにやら楽しげなアミューズメント会場となったようで
  賑やかでウキウキ要素がいっぱいでした。
  ニキが制作したナナの様々な姿はいつまでも女性達のマスコットとなることでしょう。 





 *久隅守景展 サントリー美術館


  トーハクに所蔵されている、「納涼図屏風」それを描いたのは
  久隅守景という狩野派に学んだ江戸の絵師です。
  狩野派の探幽門下四天王に数えられるほどの腕のいい絵師として活躍していたにもかかわらず、
  なぜか、本筋から離れて農耕図を描くようになります。 
  息子、娘の不祥事を受け、探幽の元を離れることとなった、といわれています。
  それだけでも波乱含みの人生のようです。
  江戸を離れ、加賀、前田藩で数々の名品を製作し、
  農民風俗を取り込んだ、自然豊かな伸びやかな詩情を表現しました。

  その久隅守景の作品を一望に鑑賞する機会がサントリー美術館で開催されました。
  会場入り口に細い板状のブラインドが間仕切りにしつらえてありましたが
  片方にだけカラー刷りの絵が見えました。
  よく見るとそれは多分、鷹狩図屏風のもののようでした。
  そういう会場の作り方に毎回感心させられますし、
  その気の利かせように大変喜んでしまいます。
  さて、作品群は狩野派で学んだ時から時系列に並び、
  最初は硬派な「瀟湘八景図」などが展示され、さすがの画力に感嘆します。
  当初から長閑な田園風景ばかりを描いていたわけではないのでした。
  
  今回は後期の展示を鑑賞しました。
  前期展示の「納涼図屏風」を見逃しましたが、トーハクで見たこともあるので、
  残念ですが諦めました。 
  それでも、「鷹狩図屏風」の田園風景の中に描かれる狩りの臨場感を
  堪能することができました。丹頂鶴が鷹?に襲われる図、なんて初めて見ました。
  また、「舞楽図屏風」の端正で鮮やかな作品にもみとれました。
  宗達の「舞楽図屏風」を見たのでしょうか。
  
  守景の不遇の元、息子や娘たちの作品も並び、
  そんな共演ができるとは守景もきっと喜んだことでしょう。
  娘の清原雪信の作品が案外沢山あることに驚きました。
  画風もかなりしっかりとしていて、絵師としての腕が確かなものだったことを
  知らされました。
  息子の久隅彦十郎の作品も前期後期一点ずつわずかながらも展示され、
  親子水入らずの展覧となりました。
 
  それにしても国宝となる「納涼図屏風」はなんとも長閑で、
  重厚さや、華やかさなど感じられない作品がどうして推挙されたのか、
  経緯を知りたくなります。

  やはり、時々はこうして芸術の海に浸ることで
  リフレッシュができたこと、充実の時間を持つ事ができました。
  次回の「水への祈り」展も大変楽しみにします。
  「日月山水図屏風」がお目見えです。来週、16日から始まります。


 11月はわずか3件の展覧会鑑賞でしたが、それなりに楽しくも興味深いものばかりでした。
 今年最後の展覧会は何処になるのか、今から楽しみです。

始皇帝と大兵馬俑 東京国立博物館

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 秦の始皇帝、その時代が紀元前3~2世紀、という果てしなく遠い時代のもの。
 その圧倒的力の歴史的宝物が中国からやってきました。
 兵馬俑の軍団が整列している姿は一度見たら忘れられません。
 現地でその凄味に触れたいと思いはしますが、
 現実的ではないこともなんとはなしに思っていました。

 10月27日から東博で
 兵馬俑の一部と、その時代の宝物の大々的な展覧会が開催されています。
 会期は長く、来年の2月21日まで。
 まさに発掘現場のような臨場感が見る人の目を釘付けにします。

 中国の長い歴史の中でこの秦の始皇帝の時代は特別の時代だったのではと感じます。
 広大な土地と勢力争いが繰り返されていく中で、
 その畏怖と尊敬と永遠を墳墓の大きさで表したのだとすれば、
 始皇帝の思いも果てしなくその力と執着を見せつけてきます。

 江戸時代、徳川家康が日光東照宮に奉られた、そのことを思っても、
 大きさが桁違いだと知らされるのです。

 会場では
 装飾品が煌めきを放って、銅製の鐘が鳴り響くような気配と共に、
 玉の麗しい姿にため息を吹きかけるようにへばりついて見つめてきました。
 やきもののゆるい表情にも癒やされて、うっかり紀元前に制作されたことを
 忘れてしまいそうになります。

 第二会場の兵馬俑の実物の展示コーナーはやはり、圧巻壮観です。
 このためにこの展示があると言っていいでしょう。
 始皇帝の魂を乗せる銅馬車1号、2号が展示され、その横にはぐるり
 馬を飾ったものなどが展示されています。
 馬たちの表情も一頭一頭丁寧に作られ、感心します。
 その立派な馬車は永遠の道へ連れて行ってくれるのでしょうか。

 そして、いよいよ、兵馬俑がまさに発掘場所のような超大なスケール感で
 会場に林立していました。

 一人一人あてがわれた職をプライドを持って厳しくも凛々しいお顔で
 正面を向いて構えています。
 
 よく見れば様々な職業、それぞれの衣裳、ヘアスタイルも違い、
 回り込んで見上げて三つ編みだとか、六つ編みだとかの編み込みも
 工夫されていて、感心したのですが、
 これは自分で編み上げられるものではないので、
 誰かが彼の髪結いをしたのだろうと想像し、工夫に感心しました。
 それにしても土のやわらかな表情がよくぞ壊れずに保存もさることながら
 運搬技術にも敬意を表しました。

 会場では撮影コーナーが設けられ、臨場感を記録してきました。







 一見の価値ありありです。
 大国の紀元前の文化度の高さにひれ伏します。

 トーハクのサイトはこちら

 展覧会の特別サイトはこちら

 サイトの画像がとても綺麗なので、ぜひご参考に。

東京国立博物館 本館 (12月11日)

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 トーハクの平成館で兵馬俑に圧倒されたあと、
 平成館の考古展示室がリニューアルされたとのことで、
 早速立ち寄ってきました。
 
 我が愛しのミミズク土偶ちゃんも久々に愛らしい姿を
 魅せてくれました。



 考古の展示ではあってもしっかり美術が溢れています。
 
 縄文土器の根源美、始原の美しさ、発掘品にとどまらない、
 命の輝きが今も煌めいてそこにあるのです。







 本館2階の展示にも関連して土偶の立派な姿に巡り会えます。



 いつものように、展示されたものの中から気になったものをピックアップします。
 
 国宝展示室では 「観楓図屏風」(12/13まで展示)
 狩野秀頼筆 紅葉の艶やかな色使いとそれを楽しむ人々の姿が
 繊細に描かれています。





 仏教の美術コーナーでは美しい経文が並びました。(~17まで展示)

 ・平行政願文  
  祖父の13回忌に作成した供養願文といわれています。
  中国製の紙に世尊流の定成の筆と伝えられているそうです。







 
・紺紙金字無量義経
  見返しに極彩色で童舞(わらわまい)の十種供養伝供の図を描いて、
  紺紙には金界線を引き金字で無量義経が書かれています。
  


 ・華厳経断簡
  目無経として知られるのは「金光明経」と「理趣経」で、
  料紙や白描下絵などの体裁と共通し「大方広仏華厳経」
  の目無経断簡2点を東博が所蔵しているとのこと。
  源氏物語の白描下絵に経文が書かれているような美しさでした。
 


 ・往生要集絵巻 巻第四
  迦陵頻伽の愛らしい姿が浮遊して見えました。



 宮廷の美術では断簡シリーズ。(1/17まで展示)
 ・紫式部日記絵巻断簡
  断簡と聞けば、益田鈍翁の存在が思い出されます。
  この断簡もやはり、鈍翁が昭和8年に分断し、
  五島、藤田、他に四巻分が現存するそうです。



 ・佐理、道風、行成 平安の三筆がそろい踏みしていました。
 ・「円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書」
  (えんちんぞうほういんだいかしょういならびにちしょうだいし
   しごうちょくしょ) 
  こちらは延暦寺第10世座主、増命が示寂し朝廷が「静観」の
  諡号を授け、その師である円珍には「智証大師」の諡号が贈られた
  ということで、延長5年円珍没後36年目に相当し、
  和様の開祖といわれる小野道風(894~966)34才の筆との解説がありました。

 毎回、書を前にすると読めない解読できない残念さにうちひしがれますが、
 書体から滲む美しさには親しみを持てるようになりました。

 禅と水墨画 (1/17まで展示)
 こちらには「鷹山水図屏風」が堂々と展示されていました。
 雪村周継筆、松永安左右衛門寄贈
 雪村は常陸国の武将瀬下が禅僧となって遍歴し三春に隠棲したと解説にありました。
 三春といえば、しだれ桜の名所の三春でしょうか。
 そして、杉本博司氏のプリント、ジオラマシリーズを彷彿してしまうのでした。



 屏風と襖絵 (~1/24まで展示)
 「松竹梅図屏風」がおめでたく現れました。ゆったり琳派の香りがします。
 作者は立林何帠(たてばやしかげい)江戸の乾山のお弟子さんだそうです。




 「女房三十六歌仙図屏風」土佐光起筆
 もう、この繊細な雅な姿にため息しかありませんでした。
 全体の姿も、個々の姿も丹精された様子にありがたさをひしひし感じます。

 「源氏物語図屏風」(初音・若菜上)
 こちらも土佐光起筆で雅で美しい屏風で新年を言祝ぎます。
 この屏風は御簾越しに覗き見る、そういう設定がされ、見る人もともに
 覗きを体験できる仕組みとなっています。
 光起の渾身の作品となったのではないでしょうか。
 御簾の線の緻密さに目が痺れます。








 1/2からはここに池大雅の「楼閣山水図屏風」が展示されるようです。

 暮らしの調度 (~1/24まで展示)
 屏風に源氏物語の初音が展示されましたが、こちらでもおめでたい調度として
 初音調度が並びました。
 火事装束の深紅の衣裳がまばゆいものでした。
 また、道八の愛らしい「色絵寿老置物」がお祝いムードを連れてきてくれます。



 こともなげに「色絵月梅図茶壺」仁清作が艶やかに登場します。
 
 書画の展開 (~1/24まで展示)
 「大井川富士山図」英一蝶 (大倉集古館蔵)

 「猿図」木下応受筆 
 この応受という絵師は応挙の次男で母方の木下を継ぐため
 養子となったそうです。さすがにきっちりとした写生を学んだ画力が見えました。
 来年の年賀状デザインの参考となりそうです。



 「猿猴芦雁図」二幅 岩佐勝重筆
 この名前から岩佐又兵衛の縁者かと思いますが、嫡男として福井で生まれたそうです。
 福井藩のお抱え絵師として長く勤めたようです。





 「十二月花鳥図屏風」狩野永敬筆
 まばゆいほどの絵の具の発色の美しさとおめでたい意匠がびっちり描き込められています。






 「和漢古画図巻」(探幽縮図)巻上 (大倉集古館蔵)
 こちらは所蔵先の大倉集古館で展示されて時に拝見したように思います。
 なにしろどの絵も手抜きのない、そのうえさらりと書き上げたスピード感もあって、
 さすが天才絵師、探幽だと知らされるのでした。

 浮世絵と衣裳
 私がトーハクに行ったのは11日で、討ち入り12月14日が目前でしたが
 浮世絵コーナーは赤穂浪士、討ち入り、忠臣蔵特集として賑わっていました。
 いまでも「忠臣蔵」は人気の仇討ち物語ですが、単なる仇討ちではなく
 登場人物それぞれの物語が縦横に絡まり合って
 今でも人の世の悲しみと人情は深く人の心をつかんで離しません。
 松の廊下の刃傷事件、そのシーンを歌舞伎座で判官勘三郎と師直中村富十郎の二人が
 演じたことを思い出します。富十郎さんは当時膝を悪くされていたので、
 松の廊下を膝付きをしたままで、それを勘三郎さんが暖かく受けながらも
 厳しい刃傷シーンを汗握る緊張感で演じていたのでした。
 その後、白装束の判官勘三郎は自刃するのですが、
 本当にそんなことになってしまうとは、、、、、あれから3年なのです。
 そのお二人がいないことを役者絵を見て思い出すのでした。
 その中でイケメンきりっとした三代目沢村宗十郎の大星由良之助
 豊国描く、が綺麗だったので、画像もご紹介します。






 本館1階の彫刻も素晴らしいものでした。
 12月13日までの展示でしたが、画像だけ、upします。
 木喰作の自刻像をトーハクが所蔵しているとは、驚きました。



 また、大倉集古館所蔵の名宝、「普賢菩薩騎象像」が展示されました。
 相変わらず、お美しいお姿でした。
 「伝 源頼朝座像」もきりりと鎌倉の武士を魅せてくれました。
 頼朝の姿は伝、が添付されがちですが、良い男ぶりであることだけを
 確認できればそれでいいと不埒に思うのでした。
 若干小朝師匠にも似ていて、愉快に思ったのでした。


 
 五百羅漢寺所蔵の羅漢座像はやはり異国情緒のご面相で、
 それだけにねっとりしていてビリケン的で愛らしいのでした。
 
 また、大倉集古館所蔵の法蓮上人座像の迫力も素晴らしいものでした。

 こうして、今年最後のトーハク訪問をしっかり楽しんだひとときでした。
 来年は、もう少し歩き回ることができればと思うのですが、
 あと半年、関わったことの活動が無事散会するまで、
 そちらに力を傾注していきたいと思います。
 今年一年、様々な事が続々と押し寄せてきましたが、
 これも何かのご縁、けっして辛いことでは無く、
 頂いたご縁のたまものと逢う人々からエネルギーを頂戴することができました。
 結果、私が出会えるわけのない、素晴らしい方々との時間を持つ事ができました。

 最後にトーハクの黄昏時の画像をお届けして、
 今年最後のトーハク記事と致します。
 (ちょっとぶれぶれの画像があって、お見苦しい点ご容赦お願いします)

 トーハク、今年も沢山ありがとう!! 







2016年 平成28年 謹賀新年

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  新年明けましておめでとうございます。

  昨年は様々ありすぎました。

  去年の1月、我が家の若、一浪太の受験生、のっぴきならない状態からスタートし、
  なんとか引き取ってもらえる大学に巡り会え、安堵しました。
  北海道の104才の祖母が施設に入っておりますが、
  いよいよかといわれた2月。現在もなんとか基礎体力で持ちこたえているようです。
  そして、3月は花展に出品、なんとかお祝いイメージの花を生けることができました。
  4月、30年来のお付き合いのある方が終に力尽きて旅立ちました。
  その方は遺族を持たない方だったので、私が代理として様々お世話することなり、
  長年のお付き合いのある方々からの温かかく支えられながら、無事納骨を終え、
  相続の手続きをしている中ですが、先日その弁護士先生が急逝されました。
  これからまた引き継ぎの事務が進められるとは思いますが、
  こんなことがあるのかと驚くばかりでした。
  人はいずれ、命が絶えるときが来るのだと思い知らされた一年だったと思います。
  縁ある方の没後十周年記念の活動にも参加し、
  なんとか来年の命日を目指してモニュメントを設置する見通しが付けるようになりました。
  その合間を縫ってのアート鑑賞は 
  なかなかその展覧に真っ直ぐ迎えることができなかったようで、
  残念ではありましたが、それでも素晴らしい展覧と出会えることができました。
  ランキングを一応決めましたので、すぐに記事にしてみようと思います。

  次々と色んな課題を突きつけられた一年でしたが、
  意外に元気で、寝込むことも無く、頑張れたのは幸いでした。

  同期の友人達は今年還暦となる年頃です。
  私は早生まれなので、来年です。
  もはや、怖いものなしの年齢です。
  
  さてさて今年はどんなことが待ち受けているのか、
  本年も相変わりませず、どうぞよろしくお願いしたします。
  みなさまにとってステキな一年となりますように。

  あべまつ


2016年(平成28年)博物館に初もうで 東京国立博物館

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 新年のお正月休みが終わり、ホッと一息、今年のアート鑑賞が始まりました。
 早速出かけたのは、やはり、東京国立博物館、トーハク。
 今年もたっぷり楽しませて頂きます。
 「博物館に初もうで」
 このおめでたくも賑々しい新春イベントになかなかタイミングが合いませんで
 残念ではありますが、館内にはまだまだおめでたい景色が満載でした。
 






 京都国立博物館で山楽・山雪展を開催したときの図録バッグになった
 あの愛らしいお猿さんが今年はトーハクの招き猿を勤めています。
 本当は分に合わない夢を拾って落ちることがないように、
 との戒めなんですけれど、すくい取れない月陰も渦となって
 面白いことをやるんだもん、といいたげな。
 強面の山雪、という印象が溶けるくらいのしあわせなお顔です。
 
 本丸は後にして、まずは東洋館に行って見ました。
 それも1番上から降りていくいつものコースです。
 画像で追いかけて見て下さい。

 
 東洋館、侮れません。

































 さて、いよいよ本館に突入です。
 先月、12月の展示とかぶっているところもあるかと思いきや、
 さすがのトーハク、がらりと変わっている展示がずらずらと。
 こちらもいつものように2階から回りました。
 
 大体、展示されたものに純粋にどっきりしたいがために、
 今何が展示されているかをあまりチェックしないでみにいくことにしています。
 お~こんなものが展示されているとは!という感激を大事にしたいのです。
 最初に見たものは 新春特集展示「博物館に初もうで 猿の楽園」
 本館特別1,2室の展示でした。
 
 そこに、かの山雪描く 「猿猴図」がにっこり。
 4百年前に描かれました。



 ほか、お猿さんシリーズ、楽しみました。



















 牧谿の三幅が並んだのかとギョッとしましたが、
 なんと横山大観による、模写でして、それでもさすがの存在感です。










 国宝室は長谷川等伯のあの「松林図」
 鑑賞者がひしめいていました。
 あの茫々たる雰囲気は霊界への入り口のように見えてなりません。
 静かに対峙していると怖ろしくざわざわします。

 早々に足を進めました。
 五輪形舎利容器になぜか目が行ったのは、杉本博司展をみたから、でしょうか。
 水晶玉の美しさを再確認した気がします。



 茶の美術の志野茶碗のその奥に 無地刷毛目茶碗 銘村雲 
 東洋館で見たばかりの祭器の流れが見えます。


 
 具足の展示に麗しいはおりもの。




 屏風展示は国宝 池大雅となりましたが、
 女房三十六歌仙にまたみとれました。
 屏風の金具にもうっとりです。



 女房達はほとんどが横顔、顔を隠し伏せていたりしますが、
 一人だけ正面を見つめている絵を見つけて一人歓喜しました。








 
 浮世絵コーナーはなんと、北斎個展会場。
 びっくりしました。

 富嶽三大有名作品が並んでいました。
 そのほか、北斎漫画、肉筆の素晴らしい作品などもあり、
 ちょっとした北斎展となっていました。

















 1階に降りて、仏像から拝見します。
 年初になっても社寺参りをせずに、ここで済まそうとする不埒ものです。

 漆芸の重厚さに毎度ため息を漏らしつつ、
 刀剣コーナーにもケースに息を吹きかけます。
 陶磁器の展示には親しみと憧れを注ぎます。
 ここにも、刷毛目の親戚がいました。
 萩焼も朝鮮半島から陶工が渡来した場所の一つとか。
 桃山の雰囲気と祭器の形状が合体しているようでした。
 


 特に最初のコーナーは水滴特集。
 なんでしょうか?という形にいちいち楽しいものばかりでした。
 文房具への愛着はいまやなくなりつつありますが、
 こんな愉快な愛らしいものに囲まれて筆を執って何を書いたのでしょうか。













 トーハクを言祝ぐ生け花も展示され、
 賑々しい年明けを迎えたこの展示は1月11日まで。
 
 本館の「トーハクに初もうで」は31日までとなっています。
 
 平成館では2月21日まで、兵馬俑が威力を発揮しています。

 ことしもまたまた、東博、トーハク楽しませて頂きます。
 海外のお客様もぜひ!!

2015年 アート展覧会ベスト10

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 年末恒例のアート鑑賞のベストテンを挙げようと思いつつ、
 年が明け、松が取れてしまいました。
 遅まきながら、2015年を振り返りたいと思います。

 2015年は特別な一年でしたので、
 行動範囲が限られていて、至近距離の美術館ばかりでした。
 数年来の中で一番少ない展覧鑑賞となりましたが、
 美しくも麗しい芸術品を見ることができました。
 
 アート鑑賞の他では、文楽は東京公演はほとんど見に行くことができましたし、
 六本木文楽では最後の玉女さんの人形遣いを拝見し、
 その後、国立劇場で玉男襲名というおめでたい熊谷陣屋では
 パワフルで凛々しい熊谷を拝見しました。
 歌舞伎界では中村雁治郎襲名もありました。
 父上の藤十郎さん、ご子息の壱太郎さん三代そろっての
 おめでたい吉田屋をお芝居中に襲名披露の場面もあって、
 賑々しい雰囲気のなか楽しんで観てきました。
 藤十郎さんの和事をさらりと継承するお茶目でさわやかな雁治郎さんに
 なるのではと期待しています。
 それにしても濃厚な血流です。
 今年は歌舞伎界の襲名ラッシュ、橋之助さん、芝雀さん、おめでとうございます。
 襲名披露舞台の無事をひたすらに祈念します。

 では、アートランキング、はじめます。

 10 スサノヲの到来 いのち、いかり、いのり展  渋谷松濤美術館
   実は改装してから初めての訪問となりました。
   スサノヲ展に御贔屓の木彫作家、佐々木誠さん作品が出品することを
   ご本人からご案内を頂戴していまして、
   その展覧の巡回展をずっと伺えないまま申し訳なく思っていました。
   川村美術館での展示にはカナリ期待していましたので、
   ますます動きの取れない状況があって残念でしたが、
   ようやく、ようやくラストの松濤に間に合ったことが印象に残っています。
   「スサノヲ」を日本古来からどう表現してきたのかを
   縄文から現代の今までを多岐にわたっての展覧でした。
   その展示をどう受け止めて良いのやら、途方に暮れましたが
   図録にそれが美しく解説されていましたので、
   それを頼りにしようと思いました。
   民俗学的展覧としても珍しい取り組みだったのではないでしょうか。
   もちろん佐々木誠さんの「八挙須」(やつかひげ)
   その圧倒的存在は群を抜いていました。
   また、「深鉢突起破片」縄文中期のものは
   市川で大変お世話になった宗左近氏旧蔵のもので、
   「有が無をうんだ」と宗氏が実例として上げたもので、
   実見できた大変感慨深いものでした。
   足利市立美術館、DIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、
   山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館を
   2014年10月18日~2015年9月21日の間巡回していました。
   図録の出来が大変秀逸で、何度見ても読んでも太い根源がつまっています。
     
 9 ダブルインパクト明治のニッポンの美 東京藝術大学大学美術館
   (ボストン美術館×東京藝術大学)
   明治開国時代の日本の美術工芸は今見ても飛び抜けて変なパワーが
   噴出しています。おどろおどろしいというのか、熱狂しているというのか、
   盛り過ぎ、やり過ぎ過多で、そこにこそ日本の美術技術工芸をアピールすべき
   王道があったのでしょう。
   この狂乱の時代に生まれた超絶技巧芸術にひれ伏し、ため息をもらします。
   とはいえ、好物の作品ラッシュでただそれだけで嬉しくもわくわくした
   展覧会でした。
   ボストン美術館とのコラボで芸大コレクションと共鳴し合った
   好企画でした。
   ここから河鍋暁斎作品は一年をずっと引っ張り続けました。
   鈴木長吉の突き抜けた「水晶置物」は狂気さえ感じるものでした。
   江戸から明治を駆け抜けた柴田是真の画力確かな作品も秀逸でした。
   そのなかで驚きを持って鑑賞したのは
   横山大観の「烏瓜に鳩」「月下の海」「海」
   富士山の大観からは別物でした。
   何という静けさ、情感のある透明感、こんな作品を
   ボストン美術館が所蔵しているのでした。
   日本の和様に西洋美術が乱入した結果、日本画の進むべき道が
   紆余曲折してきた道程を見ることもできました。
   橋本雅邦、狩野芳崖を見る度になぜか無理矢理
   手法をディズニー化させられたような、切ない悲しみを感じてしまいます。
   岡倉天心を初め、藝術大学創世の頃から明治を突き進んだ
   日本の芸術家達の奮闘が会場中に熱気を渦巻き圧倒していました。  
   
 8 月映 東京ステーションギャラリー
   この展覧企画が宇都宮美、和歌山県美、愛知県美、の巡回を経て   
   東京ステーションギャラリーで最後の展覧となりました。
   そもそも「月映」(くつはえ)という木版画作品集を知ったのは
   2008年うらわ美術館で開催された「誌上のユートピア」展で
   陶酔の誌上、詩情、デカタンの極みをドキドキもので鑑賞した時に
   「方寸」と共に展示されたことからでした。
   「詩情のユートピア」の図録が大変美しかったのを現美の
   図書室で見て、どっきりしまして、絶対に巡回する
   うらわに行かねばと思ったのでした。
   以来、そこに取り上げられている作家たちを注視ししてます。
   浮世絵から継承されてきた版画というジャンルに
   まったく異次元の版画が生まれた1900年初頭に
   文芸誌とのコラボで新作品を発表してきた作家たち、 
   田中恭吉、藤森静雄、恩地幸四郎。
   その三人が精神の純粋と信仰、親交のひたむきな姿が
   「月映」として集結しました。
   東京ステーションギャラリーの醸し出す煉瓦の壁が展示作品と共鳴し合って
   短命だった田中恭吉の思いがますます迫ってきました。
   「月映」刊行百年記念として研究成果の発表となったそうです。
   恭吉の筆跡がとても緻密で真面目でフォントがあるかのように
   整然としていたことにも驚かされました。
   作り出された版画の単純な線から、ついセンチメンタルな思いを
   投げかけてしまいますが、センチになってもいいのだと、
   三人の友情と純粋に跪くのでした。
   図録は研究の素晴らしさのたまもの。珍しい作品をしっかり
   カバーしてくれました。
   「詩情のユートピア」と同じく、やはり図録はコギト制作でした。
   この中の恩地幸四郎の個展が今年東京国立近代美術館で
   もうすぐ、1月13日からの開催で、
   これまた大変に楽しみにしているところです。
   2015年のステーションギャラリーは鴨居玲展、九谷展
   など、好企画続出でした。
  
 7 これからの美術館事典 国立近代美術館
   (国立美術館コレクションによる展覧会)
   この展覧会の企画が大変興味深かったので、7位にランクインしました。
   美術展といえば、個性的な、著名な、芸術家か、海外の美術館出品か、
   特定の時代とか、ジャンルとかに焦点をあわせるものですが、
   この展覧は近美のコレクション展。
   会場に所狭しと所蔵品が様々な切り口でシャッフルされて
   鑑賞者との距離をぐっと身近にさせる工夫が詰まっていました。
   美術館所蔵品による,博物展のような具合でした。
   切り口となったキーワードは事典を引くように並べられ、
   簡易見取り図に現れました。
   そういった丁寧な案内図を参考になどしないまま、
   ずんずん気になったものだけを追いかけて見てきましたが、
   会場内が様々に仕掛けられているので、アミューズメント化した
   見世物として大変愉快に写メをしたりしながら回りました。
   舞台裏としての収蔵庫の中を表現した調査研究のパートが
   特に興味深かったです。
   今年は藤田嗣治を随分取り上げられましたが、
   近美といえば、藤田嗣治の個展を開催し脚光を浴びたことがあり、
   あの展覧会場の熱気たるや、近美でのあの混雑はなかなか体験したことがありません。
   その藤田の作品が研究され、大切に保管される様子に
   藤田嗣治という画家のセンセーショナルな存在が
   一段ともの悲しく映ったのでした。
   その後の藤田の戦争画特集を見に行けず、残念でした。
   ともあれ、この展覧会を企画した勇気みたいなものに
   よくぞやってくれた、と拍手を送りたくなったのでした。
   勿論オレンジ鮮やかな図録も楽しめるものでした。
   こういう、意外性をひっくり返して楽しむこと、大切だと思います。
  
 6 大英博物館展 東京都美術館
   (100のモノが語る世界の歴史)
   そもそも工芸品が大好きなので、どんなモノが集まっているのかと
   楽しみで行ったのですが、こんなに迫力有るものとは思いもかけず、
   大英の心意気に尊敬を捧げたのでした。
   人間はモノとのつきあいなしに生活は成り立ちません。
   溢れるモノの歴史から大英がセレクトした100品目。
   その視線の確かさと品格と未来をも見据える力に改めて
   さすが大英、とうなってしまいました。
   各章には世界地図があり、展示品がどこから来たのかを
   導いてくれます。
   日本からは嬉しい事に、縄文が並び、鏡、やきもの
   北斎漫画、自在置物の蛇などが出品されました。
   世界中の石、土、金属、角、紙などから生まれた
   宗教的なモノ、生活グッズなどが文明、文化、民族、工芸の
   発展と共に変化し、美しくかたどられてきたことを
   世界を旅するように見て回る楽しさがありました。
   銃のリサイクルで制作された「母」像が痛ましく、
   世界中のどこかで今も銃を持つ人がいることの不幸と人間の犯す悪徳の連鎖、
   それでも前を向かざるを得ない、人の性と芸術する宿命を感じ、心に刺さりました。
   ラストには日本の建築家、坂茂さんの紙パイプの
   災害避難用の間仕切りがセットされ、
   それを最後にした展覧企画者の深い思いに胸をつかれたのでした。
   自分が選ぶベスト5をハガキを求めて選ぶ楽しみもありました。
     
 5 肉筆の浮世絵 美の競演展 上野の森美術館
   すっかり年の瀬になって、もはやアート鑑賞は終わったかと思っていましたが、
   ギリギリ自由時間が手に入って見てきたのですが、
   本当に素晴らしすぎて仰天しました。
   シカゴ ウェストンコレクションが日本初公開の
   展覧をしていたのですが、うっかり、ノーマーク。
   アメリカの浮世絵ファン、侮れません。
   国内で優品を見ていると思っている上から目線、反省しました。
   会期はすでに後期となって、残念すぎました。前期も見たかった!!
   シカゴのロジャー・ウェストン氏の所蔵肉筆浮世絵コレクションが
   日本へ初里帰りを果たしているとのこと。
   ご本人のご挨拶文からは日本美術品の収集は40年ほど前の事だそうです。
   驚きです。当初は印籠を中心に収集しはじめ、
   その展示に肉筆絵を使用してから肉筆絵の魅力に惹かれ、
   収集を始めたそうですが、なんと1990年代後半なのだそうで、
   いつしか百点を超えることとなったと、さらりと仰っています。
   まだまだ収集可能な余地が残されているのでしょうか。
   それなりの豊かな財源があればこそなのでしょうけれど、
   シカゴの方が日本の美に魅せられてここまでの収集をされるとは
   びっくりぽん、のひと言です。
   すでに大阪、長野での展覧を終えて、上野の森美術館がラストのチャンスとなりました。
   1月17日まで。未見の方、ぜひにとお勧めします。
   浮世絵版画の事を思うと、肉筆浮世絵は高価な絵の具を使う一点ものでしょうから
   当時も値が張るものだったことでしょう。
   展覧は上方で展開した浮世絵、
   江戸の開花、浮世絵諸派と京都西川祐信の活動、
   錦絵の完成から黄金時代、百花繚乱・幕末の浮世絵界
   上方の復活、近代の中で、という章立てからも上方にシフトしていることがわかります。
   西川祐真、月岡雪鼎、祇園井特、岸駒、などの絵師の作品を
   これほどの量で見るという幸いにワクワクさせてもらいました。
   一点ものの肉筆画、微妙にバランスが変だったりするのですが、
   どの美人画も着物の細やかさ、表情のしなやかさ、妖しさ、愛らしさが
   ふんだんに盛り込まれていました。
   懐月堂の線の太い強烈な肉筆画もシャープで迫力があって勢いがあります。
   勿論、歌麿、北斎、などの巨匠も外していません。
   今回、歌麿の肉筆画、それも仙人の姿の肉筆は珍しいのではないでしょうか。
   新出とありましたので、もっとビッグニュースとして宣伝しても良かったと思います。
   北斎の描く美人図の胸元の猫ちゃんはなんだか北斎描く
   虎図に似ていて虎子、ちっちゃ、と思ったのでした。
   しかし、「京伝賛遊女図」「大原女」などの筆の速い勢いにみえる画力の突き抜けた巧みっぷりには
   うなるしかありませんでした。
   あっさりと山東京伝が粋に賛を書いているところもツボです。
   渓斎栄泉の危険度爆発の妖艶な美人図には吸い寄せられました。
   井特の軸には「せいとく」とひらがなで愛らしい印が押してありました。
   井特の描く美人の唇は「笹紅」で黒光りしています。
   一度見たら忘れられない謎めいた雰囲気のある井特作品を5点も
   所有しているとは、感服致しました。
   最後に暁斎の「一休禅師地獄太夫図」
   小林清親の「頼豪阿闍梨」「祭芸者図」がつんとやられました。
   それと特筆すべきはどの軸装にも艶やかな布が使用されていて、
   主人公の美人図をより一層賑々しく飾り、華やかにしているところです。
   三幅揃い雪月花のデザイン化された表装にはうなりました。
   こういった表装デザインにもぜひ注目して欲しいものです。
   知らなかった絵師の名前も現れ、ほう、こんな絵師もいたのかと
   初見にドキドキしました。
   こうなると、漆器、印籠コレクションもぜひに日本へ渡ってきて欲しいものです。
   今年ラストの強烈パンチでした。
   ひたすら素晴らしかったです。図録も見やすくて秀逸でした。
   この展覧に併せて上野の森美術館所蔵
   「江戸から東京へ浮世絵版画展」も開催中です。
   肉筆画の半券があれば半額、百円で鑑賞できます。
   小林清親や、笠松紫浪の作品の魅力もぜひ。
   しつこく、1月17日までです。




 4 杉本博司 趣味と芸術ー味占郷
        今昔三部作     千葉市美術館
   杉本氏の放つ趣味の世界に溺れに行くつもりで初日に出かけました。
   その感想は既にブログ記事に書き連ねましたが、
   やはりこの人の毒にわざわざやられに行こうと想う人は
   ずぶずぶと信徒にならざるを得ないと実感して参りました。
   もともと古美術、骨董が好き、なので床飾りに選ばれた品々に
   いちいちため息を漏らしてきました。   
   時代の先端を行く芸術家、写真家かとおもいきや、
   小料理屋のオヤジになりきり、
   はたまたガラス作家なり
   須田悦弘さんとのコラボを楽しみ、
   文楽界とも交遊し、茶人若宗匠とも近く、
   こんな酔狂をあっさりとやり遂げる人の魅力は
   きっと嫉妬の渦にじりじりする御仁もいらっしゃるのではと
   それを思うほど、憎たらしくも跪くしかないのです。
   作家でもあり、名プロデューサーでもある、
   なんとはなしに、デュシャンよりも光悦的な好々爺を思うのでした。
   若いお兄さんより、ずっと色気を感じます。
   床飾りにはいちいちため息を漏らしてきました。
   降参です。

   
 3 画鬼暁斎 幕末明治の絵師と弟子コンドル
        三菱一号館美術館
   2015年ほど暁斎作品を間近に見た年は無かったのではないかと思います。
   ダブルインパクト展から、うらめしや展の芸大美からトーハクでも巨大地獄図が現れました。
   その暁斎の弟子、コンドルが建築した三菱一号館での
   暁斎展開催はとても意義深いと思いました。
   二人の師弟関係をスケッチやコンドルの画力の上達ぶりを見て
   幸福な関係を気づいていったことを知りました。
   メトロポリタン美術館からの出品作品を鑑賞する機会も
   大変ありがたく、本当に描く事への執心ぶりを見せつけられました。
   今年特筆すべき、春画の扱いもこの展覧で一工夫がありました。
   暁斎の絵を描くことの楽しさ、自分の腕が試される心地よさ、
   可愛い弟子が育ってくれる喜び、
   そういった素直な気持ちが超絶技巧の底力になっているのだと
   ともかく文句なく上手い初期の作品から頂点の作品などを通して見ることができ、
   前期後期と通う楽しみも味わったありがたい展覧会でした。
   今後も注目し続けていきたい、絵の巧さが際立つ暁斎、万歳でした。

 2 蔡國強 帰去来  横浜美術館
   蔡國強の迫力と大画面、花火の放つ瞬間の爆発の燃えた形跡が
   絵画となって、見る人を惹きつけてやみません。 
   大きなスケール感は他の追随をみないのではないかと思います。
   横浜美術館というホールの広い天井と展示室の環境と
   作品がぴったりとコラボして素晴らしい空中を演出していました。
   中国で生まれたという出自と日本で暮らした経験と、
   そのアイデンティティの揺らぎこそが
   帰去来となって無常観とそれでも生きていく命讃歌へと
   導かれていくようでした。
   手元で小さくなっている現実から天井を仰ぎ見て
   世界はずっと広々としていることに気づき、
   打ちひしがれていても前を向けば良いことが見つかるかも知れない、
   そんなことを思った気持ちの吹っ切れ感が大いに救われたのでした。
   オオカミたちのエンドレスな壁付きは勇ましく切なく、愛おしい作品でした。
   破裂の中の愛おしさがふんだんに盛り込まれていることに安堵も覚えたのでした。
   新作の春画は未成年達には見られないような工夫がされましたが、
   ひたすら愛の讃歌、命の讃歌で毒気を感じられるものではありませんでした。
   大げさな表現のようでいて、実はその裏に大変な精密な工芸と
   それを支えている大勢の参加者がいたことも忘れられません。
   また、横浜美術館特集の戦争テーマも秀逸でした。
   インパクト絶大でスケール感が際立っていました。 
  
 1 生誕二百年 同い年の若冲と蕪村 サントリー美術館
   光琳が亡くなった1716年奇しくも同じ年に生まれた
   若冲と蕪村、その二人の回顧展がサントリー美術館で開催されました。
   すでに若冲の人気は不動のものとなって、展覧会に若冲の作品が出品されれば
   その展覧会の目玉スター的存在となっているのではないでしょうか。
   対する蕪村、文人画と俳人としての渋さが鈍く光る玄人な雰囲気です。
   その二人がなんと、京都の四条通の間近に暮らしていたそうです。
   そういった生活環境からも鑑賞の視点を向け、
   二人を対比させて制作された京都の豊かな環境、懐の深さ、
   絵師が受け入れられてきた時代などを感じる贅沢な展覧会でした。
   展示作品数の多さから展示替えがありましたが
   何度となく通いたくなる魅力に引き込まれました。
   会場では若冲と蕪村が併走してユニークな若冲、しっとり情感のある蕪村、
   画法の違いもわかりやすく、執着度の高い若冲に対し、
   さらりと筆が滑る蕪村に改めて惹かれる思いがしました。
   ほぼ時系列に展示される中で、影響のあった中国、朝鮮絵画も紹介され、
   まさに彼らはこの時代に生々しく生きてきたのだ、という実感を得られるようでした。
   近所に住まいながらも二人は交流していたかどうか、
   若冲は、俳諧に興味が無く、放浪の蕪村とは交流する手立てもなく、
   記録がなかっただけなのかも知れません。
   交遊関係者の参加も楽しいものでした。
   老練の翁の時代、二人は旺盛な制作意欲を見せます。
   若冲が密度の濃い、濃密な作品を次々と描き、
   蕪村もまた硬筆なしっかりとした山水画を描いてきた若いころと競べても
   まったく衰えを知らず、見る人の目を留める、迫力溢れる作品を次々と発表していきます。
   ジャクソン展と親しまれた展覧会、
   今回は蕪村にすっかり心奪われ、こんなにステキな絵師だったのかと
   驚きを持って感嘆したのでした。
   サントリー美術館の展覧に対する真摯な企画と会場デザインには毎回気持ちの良い
   鑑賞環境を整えてくれ、サントリー美会員としても信頼し続けられる美術館です。
   道八、乾山、藤田美術館、久隅守景、続々と素晴らしい展覧を楽しんだ一年でした。

 以上、ようやく2015年ベストをあげましたが、記憶に残ったもの、もう少し
 次回書き出したいと思っています。

2015年アート鑑賞ベストテン番外追記

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 前回、2015年の展覧会ベストテンなどを挙げてみましたが、
 番外、というにはもったいない展覧会もありましたので、
 感想を残しておこうと思います。

 2015年全体に流れていた、女流作家の展覧会が健闘していました。

 破格のパワフルな絵では 片岡球子展(国立近代美術館)が挙げられると思います。
 持ち前の描きたいという情熱の裏には
 おびただしいデッサン、スケッチが見つかったことによって
 本作までに至るプロセスが容易なものではなかったことを知らされます。
 球子さんでさえも、日々の鍛錬がやはり力となっていることを痛感させられました。
 それにしても何の作為もなく、ひたすら絵を描くことに邁進している姿に、
 ともかく、今やること、それが大事だと背中を押してもらいました。
 
 破格のパワー、といえば、リキ・ド・サンファル展(国立新美術館)
 こちらもオブジェそのものの大きさも、カラフルなところも、
 女流として戦ってきたこともなんとなく片岡球子さんと共鳴するところが
 おおいにあったように思いました。
 どんと肝を据えて堂々と突き進めば、
 なんとかなるものよ、と勇気もらったのでした。





 その流れは暮れの横浜にも届いたようで、
 鴻池朋子さんの個展が開催されていたのですが、
 残念ながら情報をたぐることしかできませんでした。
 鑑賞した方々の感想やら、新作の画像などをみても、
 新たな鴻池朋子ワールドが展開されたようで、大変嬉しく、心強く思ったのでした。

 女流繫がりで、山種美術館では上村松園生誕140年記念としての
 「松園と華麗なる女性画家たち」という展覧を
 ご近所の実践女子学園と協力しあって、新鮮な形で開催しました。
 会場を二カ所にしたような充実の展覧でした。
 実践女子学園の香雪記念資料館の会場では
 女子大生の丁寧なアシスタントに好意を持ったことを思い出します。
 松園が女性初の帝室技芸員となったのかと思いきや、
 実は彼女の40年前に任命されていた野口小蘋(のぐちしょうひん)がいたのでした。
 また、以前松岡美術館のどの展覧会か失念してしまったけれど、
 断髪で強面の奥原清湖という南画を描く女流画家がいたことを
 強烈に覚えていて、この展覧で再見し、小躍りしました。
 ほか、伊藤小坡、片岡球子、小倉遊亀、木谷千種、島成園、ラグーザ玉
 などの作品が並び、女流画家の活躍を知る良い機会となりました。
 山種美術館は根津美術館から頑張れば歩いて行かれます。
 また、企画展ごとのコンパクトな図録もお気に入りです。
 もちろん、その企画にあせて生まれる食べるのがもったいない
 愛らしい和菓子も楽しみの一つです。
 夜のイベントになかなか参加できないのが残念ですが、
 若い方の参加で盛況なこと、嬉しい事です。




 その後、夏のオークラホテル、恒例の「アートコレクション展」
 において、木谷千種、片岡球子、上村松園の作品と巡り会うのでした。
 そのオークラホテル、いよいよ解体の時が迫り、
 大倉集古館も閉館したままで、工事が迫るような残念な姿を見てしまいました。
 内外の著名人から惜しむ声が沢山寄せられていました。
 ホテル美術館としてのニューオータニも既に閉まってしまいました。
 ゆったりとした空間で楽しむ、その環境の中で優雅なダイニングを楽しむ、
 そこにステキなアート鑑賞に贅沢な付加価値が生まれるのです。
 今後、東京五輪まで、という期間なのだそうですが、
 建設当初のこまやかな日本の伝統技術をぜひぜひ継承していってもらいたいものです。
 「アートコレクション展」では、日本の絵画としての代表作家たちが
 勢揃いした豪華なものでした。
 そこに共鳴するかのようにマチス作品が並んだことも展覧に
 リズムが生まれ、幅が広がったものになっていました。
 今村紫紅の「護花鈴」が雅な屏風にミステリアスな緊張感がある印象的な作品でした。
 また、岡本神草「仮面を持てる女」に甲斐庄楠音を感じると思ったら、
 やはり、入賞候補に二人が挙げられて悶着があったそうです。


 
 こうして、近代女流画家の活躍を彼方此方の展覧で互いに引き合うように
 鑑賞しながら、同時代の巡り合わせを興味深く感じた年でした。

 他に、岩佐又兵衛の超大作、「山中常盤絵巻」をMOA美術館まで出向いたことも
 記憶に残る鑑賞でした。
 MOA美術館では岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」「浄瑠璃物語絵巻」
 「堀江物語絵巻」それぞれ12巻を所蔵している、希有な美術館で
 岩佐又兵衛ファンならばこの目で見てみたい、と思うところでしょう。
 その好機が転がり込んできましたので、
 ワクワクイソイソ新幹線に乗り込んで出かけました。
 さすがの本物絵巻が12巻並ぶ姿は壮観圧倒で、それだけで見る力が吸い取られ
 所蔵の名だたる名宝が霞んでしまいました。
 それにしても絵の具の発色の鮮やかさ、本当に江戸時代のものなのでしょうか。
 細部の表現にも手抜かりなく、牛若丸のめくるめく活躍に目を奪われてきたのでした。
 辻惟雄先生ご執心の名場面、常盤御前が暴徒に襲われ、瀕死の状態に
 宿の主人が最期を看取るシーンは血なまぐささがありながらも
 陶酔のエクスタシーの美が盛り込まれます。
 また機会をねらって「浄瑠璃物語絵巻」「堀江物語絵巻」をこの目で確かめたいと
 願ったのでした。
 それらの作品をまとめた「岩佐又兵衛作品集」矢代勝也著 この本が大変役に立ちます。
 何しろ極彩色。超絶技巧。目眩がします。



 その興奮冷めやらぬ夏の暑い頃、「絵巻を愉しむ」という企画展が
 大手町皇居、三の丸尚蔵館で開催されました。
 それもまた、岩佐又兵衛作と言われる「をくり」絵巻を中心に、とありました。
 これはいかずにはいられません。
 前期、後期とも楽しみました。
 「小栗判官絵巻」15巻のうちから部分でしたが、相変わらず賑々しく濃厚な色使いです。
 会場には全体の縮図が掲示され物語のあらすじを追いかけることができました。
 しかし、それではわからない事だらけでしたので、
 「小栗判官と照手姫」という鑑賞ガイド本を手に入れて
 破天荒な物語を辿ることにしましたが、
 なぜここでこれがでるのか?という無茶が満載なので、
 そんなことも含めて楽しめばいいのだと奇妙な展開と弾ける絵の具を
 図版からも楽しみました。
 ここでも以前、出光美術館で小栗判官がぼろぼろの老人となって
 車椅子に乗せられ、橋のたもとを移動している場面を見たことを思い出しました。
 それはどういう場面へと繋がっていくのか、ようやく知ったのでした。
 そういえば、東博でも部分の展示があったように思います。
 それにしても長大な奇想天外な物語。見る人は瞬間瞬間胸ときめかせ、
 次はどうなってしまうのか、胸を痛めながらもドキドキして楽しんだことでしょう。
 最後判官は沢山の神々に囲まれての大往生となってしあわせなハッピーエンドとなるわけです。
 めでたし、めでたし。
 この三の丸尚蔵館もいずれ改築し展示総面積を増やす計画があるそうで、
 楽しみにしたいところです。






 こうして、2015年は見逃した残念な展覧会だらけの一年でしたが、
 面白い発見、実見が叶って有意義な時間をつかむことができました。
 大展覧会の陰で、小規模な展覧が印象に残ることもあります。
 その時のタイミング、巡り合わせ、ということも大きいかも知れません。

 さて今年はどんな展覧、美の発見がありますか、ワクワクします。
 年初から東博、サントリー美、三井記念美、銀座松屋の着物展などに
 行くことができましたので、まずますなスタートとなりました。

 急に寒くなり、冬らしくなりました。
 体調管理に気をつけて、ステキな発見がありますように。 

流 麻二果『角ぐむ』 ギャルリー東京ユマニテ

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 今年初めてのギャラリーは
 京橋のギャルリー東京ユマニテで開催された
 流 麻二果さんの『角ぐむ』展でした。

 流さん、という名字からはひょっとして、彫刻家の流政之氏との関係があるのかと思えば
 やはり、娘さんだったと知りました。
 しかし、あの流政之氏の血流かと思うと、その濃度にくらっとします。
 野太い石の巨大彫刻を精力的に世界を舞台に大活躍されてきた
 巨匠ですが、90を過ぎた今も尚、お元気に制作活動を続けていると伺って
 またくらっとしました。
 
 何年か前にオペラシティの一角で、
 また国立新美術館で開催されたDOMANI展で、
 流、という名前にぴったりな色の流れ混ざり合いが特徴の
 鮮やかな画面を記憶していました。
 今やコンテンポラリーアートではしっかりと名前が刻まれた画家となられて
 まぶしい限りです。

 今回、ユマニテの会場に入るとまだ油絵の具の匂いがほんのり漂っているくらい、
 新作が並びました。
 大きな壁面にすっくり一枚掛けの空間は清々しいものでした。
 画面からたゆたう色のせめぎ合いは
 大変静粛なのに、凛とした潔さが迫ってきます。
 しかし、厳しさという強さより何かを受け止めている心地よさがあり、
 漂流している長い時間の気配があります。
 タイトルが一作一作が謎めいていて、勝手に色々妄想してしまいます。
 実際のイメージを描くということがどういうことなのか、
 なかなか理解できるものではありませんが、
 あぁ、ステキだな、と思うだけでその絵と接点が生まれるようです。
 人気のないことからも安心して夢想する視覚界へ誘ってくれます。

 ともかく、一度見たら忘れることができない、魅力が溢れています。

 画像を紹介しても良いとお許しを得たので、upします。
 展覧は既に終了していますが、
 2月3日まで展示されているそうです。
 作品にはあちこちに赤丸シールがしっかりと貼られていて
 人気と実力を知らされました。



 展覧ご案内ハガキになった作品「その次/One After Another」



 「しの字/Halfpipe」



 「飴ふらず/Candy Sky」



 「その先に/Further and Further」



 「はじき/Flick」
 


 ユマニテの情報はこちら。
 
 なにかと親しくお話を伺えるところなので、ついつい甘えてしまいますが、
 楽しい時間を頂きました。

 次回、どんな作品と出会えるか、楽しみなお気に入りのギャラリーです。
 同じフロアーにある骨董店、「草友舎」こちらも
 小さな愛らしい草花を何気なく活けてあるステキな場所ですので、
 併せてお立ち寄り、お勧めです。
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