実に久しぶりの世田谷美術館訪問でしたが、
ユニークな展覧カップリングに喜びました。
一つは榮久庵憲司、デザイナーの先駆け、戦後の生活水準を引っ張ってきた
現場監督のような存在というイメージの方。
様々なデザインを手がけてきて、実はこんなものも取り組んできたのかと
驚かされます。
会場入ったすぐに
手がけてきたデザインの品々が同じサイズの四角柱のショーケースに入り
整列していますが、
そのバックが世田谷美術館の公園の緑がスクリーンのような借景となって
作品をぐっと引き立てていました。
広々とした公園の一部に会場があるような錯覚をしてしまいます。
電車の車両、カップサイズに入れられるようになった珈琲のパッケージ、
蒔絵がデザインされたケース、
足を支える介護用品、などなど多岐にわたっていて
仕事の幅の広さを教えられます。
進んでいくと今度は近未来的なテクノロジーのデザイン。
紙で出来た簡易住居空間、4輪の倒れないバイクのようなもの、
足が不自由でも乗れるボブスレーのような一人乗り車、
災害時や、介護などの分野でもテクノロジーだけではない
デザインの美しさを表現していきます。
場面は変わり、黄泉の国へ。
道具自在千住観音さまが道具村の世界を表します。
榮久庵さんのご実家はお寺だったそうで、
僧門に入った経験もあると聞いて納得の世界観です。
また、ご自身もいずれ招かれるであろう世界が
近くに感じられてきたのかも知れません。
鐘を鳴らす腕のムーブメントがとても美しく、
ゴーンと鳴るまでのひとときを見とれてみてしまいました。
また、旅立ちの寝台車はシルクロードへの旅のような
音に導かれるのですが、そのスピーカーも彼のデザイン。
また、人工的な蓮池には蝶や鳥が舞い、光が移り変わります。
所々の蓮の花もゆらりゆらりします。
天空には鳳が飛翔するのでした。
ご本人のインタビュー映像もあって
もの、道具への熱い思いをよどみなく淡々と
語り続ける姿に驚かされます。
ちょっと振り幅の広い世界観ではあるのですが、
道具のデザインに捧げてきた仕事の行き先は
現実のものではなく、遙かなる鳳が舞う世界への入り口なのかも知れません。
詳細な展覧会のサイトはこちら
会期は9月1日まで。
昭和のデザインを生きた人が60年を経てたどり着く
思想的道具自在千手観音像に榮久庵憲司の生きてきた道のりを
見る思いがしました。

外に展示されていたのは
道具茶室 でした。この灼熱では
地獄なお茶会でしょうけれど、
中に入ってみたくなりました。